はじめに

本記事は、2014年2月1日にJustin Caldbeck氏によってhttp://techcrunch.com/に寄稿された記事(原題: To Succeed, Growth Hacking Has To Focus More On Product Development Than Marketing)を筆者が翻訳したものになります。

私は、グロースハックジャパンを通じて微力ながらグロースハックの普及に努める中で、「プロダクトの提供を通じて実現したいビジョンとユーザー体験を考えぬくこと」の重要性を日々痛感しております。そこで今回は、具体的な例と的確な論理でその重要性を示す元記事を是非皆様にもご覧頂きたいと考え、http://jp.techcrunch.com/にまだ翻訳記事が掲載されていないことを確認した上で翻訳に至りました。

グロースハックに少しでも興味関心がある読者の皆様には、是非とも最後までご覧頂ければ幸いです。

成功するために、グロースハックはマーケティングよりも商品開発に焦点を当てなければいけない

rocket1

(画像参照元:http://techcrunch.com/2014/02/01/to-succeed-growth-hacking-has-to-focus-more-on-product-development-than-marketing/)

寄稿者について: Justin Caldbeck氏はLightspeed Venture Partnersのパートナーであり、ソーシャルメディア、eコマース、そしてBtoBソフトを中心としたネット及びモバイルセクターへの投資を行っている。ツイッターアカウントで彼をフォローしよう @caldbeckj

近頃のIT業界で「グロースハック」ほどのバズワードは思い浮かばないし、これほど危険なトレンドも思い浮かばない。確かにグロースはいいものだ。もしそれが真のグロースである場合に限ってだが。

もしグロースハックがバイラル拡散して、大量に一度きりの「ユーザー」を獲得するマーケティングキャンペーンであれば、それは利益以上に害をもたらす。もしプロダクトが頼んでもいないスパム的なソーシャルメディア上のシェアを通じて成長しているのだとすれば、成長を示すメトリックはビジネスの健康状態を事実と大きく異なる形で述べることになるだろう。本当に素晴らしいグロースハッカー(例えばフェイスブック、ツイッター、リンクトイン、クオーラの記録的なユーザー獲得に貢献したAndy Johns氏のような人々だ)は、グロースハックが単純に可能な限り多くのユーザーを集めることだけでなく、プロダクトを正しく体験してもらうための手助けをし、可能な限り大きなユーザーベースを築くことだと理解している。この2つでは、意味が大きく異なる。

Formspringの例を取ってみよう。2010年、このQ&Aサイトは他のどのサイトも経験しなかったスピードで成長を遂げた(テッククランチが前年にピンタレストを最速で1,000万ユーザーに達成したウェブサイトと表彰した際に、FormspringのCEOがツイッターでそう指摘していた)。しかし、1年も経たない内にFormspringのグロースは陰りを見せ、トラフィックや利用率は下落し始めた。なぜか?ソーシャルメディアとの統合故にFormspringは成長したが、訪問者は一度か二度サイトを見たものの、プロダクトに価値を見出すことが出来ず、結果として大半の「ユーザー」が継続的に利用しなかったか、もしくは意味のある形でエンゲージしなかったのである。

私が恐れているのは、Zyngaも同様の例になる運命にあるということだ。Zyngaはかなりアグレッシブなバイラル・マーケティングを行い、当時は目新しかったアプリ内課金で早期の収益化に成功したが、私からすればZyngaは投資家として私がいつも求めている要素を欠いていた。プロダクトソウルだ。プロダクトソウルとは、創業者が創出したいと願うプロダクトのビジョン、プロダクトが人々の生活をより良く変えられるという強い信念、そしてプロダクトを素晴らしく、使いやすくするためのたゆまぬフォーカスを意味する。

Zyngaにプロダクトソウルは存在しなかった。グロースへのフォーカスと真のプロダクトイノベーションの欠如故に(Zyngaのゲームは他のゲームの複製品ばかりを作ってきた)、Zyngaの方向性は定まらず、企業としての重要性も過去一年で大きく下降している。

ソーシャルビデオアプリのViddyはより良い例である。2012年初頭、ViddyはSocialcamや競合他社と「ビデオ版インスタグラム」になるための闘いを繰り広げ、Viddyのグロースは並外れたものに思えた。2011年5月から2012年3月にかけて、Viddyは1,000万ユーザーを獲得。2012年の5月には3,000万ユーザーを手中に収め、同年12月には4,000万ユーザー登録も達成した。しかし、月間アクティブユーザーは67万5,000人しかいなかったのである。

6ヶ月というスパンの中でViddyのグロースが95%も急落したのは、単にフェイスブックがコンテンツを見るためにアプリのインストールを要求するスパム的なアプリを取り締まったからだけではなく、継続的利用の観点から見てViddyのプロダクトが消費者の共感を呼ばなかったことも原因である。あらゆる起業家に聞けば分かることだが、ユーザー獲得よりも、粗悪なプロダクト体験を味わった後の継続利用を促進する方がよっぽど難しいのである。

グロースハックに本質的な問題があるわけではもちろん無い。グロースは素晴らしいものだし、最終的には企業価値を推進する大きな原動力となる。問題は、あまりに多くの起業家が、本来私が最も重要であり、持続的な成長を推進すると考える要因よりもグロースに焦点を当てすぎているということだ。そしてその要因とは、ユーザーがプロダクトに触れた時、その感覚に愛を感じるか、もう一度使ってくれるか、そして何よりも良質なプロダクト体験を感じ得てくれたかどうかである。

私は最近、尊敬する起業家からグロースハッカーの採用を考慮しているという話を聞いた。彼らは強固なチームと素晴らしいミッションを持っているし、一定数のユーザーが抱える問題を解決しうるプロダクトと共に、ある大きな市場のアーリー・リーダーとして君臨している。しかし、彼らはグロースに問題を抱えているという。なぜだろうか?第一に、彼らの早期のグロースはオーガニックのグロースでは無く、広告費用によってもたらされたものだった。そして2点目に、プロダクトを試したユーザーの大半は(継続的利用を目的に作られていたにもかかわらず)継続的にプロダクトを利用することがなかったのだ。

この2点こそ私が考える彼らの主要な問題であり、一人のグロースハッカーが解決出来る問題だとは思えない。企業の初期段階の「グロースの質」を評価する時、私が見るのはグロースの大半がオーガニックチャネルを通じて起きたものかどうかである(言い換えれば、85~90%以上のグロースが広告費用を必要としない無料のマーケティングチャネルによってもたらされたかどうかである)。オーガニックチャネルを通して達成されたグロースは、ユーザーが周囲にプロダクトの素晴らしさを伝えているということを示しているのだ。また、ユーザーが何度もプロダクトを利用しているかを確かめるために、私は一定期間におけるエンゲージメントに関するメトリックも見ている。

私は先述の起業家に対して、グロースを加速させる前に、プロダクトの口コミによる拡散とエンゲージメントを改善することを提案した。プロダクトがオーガニックチャネルを通じて成長する時、そしてユーザーが自ら継続的にプロダクトを利用するようになった時に始めてグロースハッカーを雇うべきなのである。

今一番厄介なのは、多くの企業がグロースが全ての問題を解決するという誤った考えの基に企業活動を行なっているということだ。この誤った考えのせいで企業はスパム的な拡散テクニックを使ってユーザーを獲得する自称グロースハッカーを雇うに至っているが、ユーザーがプロダクトを継続的に利用しなかった時、そして更に悪いことにその粗悪なプロダクト体験を友人に伝えてしまった時、グロース曲線はへし折れるのである。

その頃には「グロースハッカー」は転職先を既に決めており、その結果あなたに残されるのは、利用者を見つけられないプロダクトか、ユーザーに継続的利用の理由を見出してもらえないプロダクトのどちらかとなるのだ。

結論として、もしあなたがグロースハッカーを雇うべきか考慮しているのであれば、単に上向きに急勾配なグロース曲線を描けるだけでなく、ユーザーにとっての価値やUXを熟知したプロダクト中心の考えが出来る人材を探すべきだろう。