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上記の画像は、栄養サプリを販売するHerbalifeの売り上げを示すグラフです。

グラフを見ると、1988年から2011年に至るまで、順調な成長を遂げていることが見て取れます。…が、果たして本当にその観察は正しいのでしょうか?

本日は、Herbalifeの実例とGrouponを含む2つのスタートアップにまつわる実例を交え、持続「不」可能なグロースの危険性を紹介致します。

*本記事は、data.heapanalytics.comの記事「What Unsustainable Growth Looks Like: Herbalife, Groupon, and More」を基に筆者が執筆致しております。

Herbalifeの実例

冒頭でご覧頂いたHerbalifeの売上を示すグラフは、世界を股にかけてサービスを展開するHerbalifeの全体の年間売上を示したものです。

2001年には約20億ドルで停滞していた売上が、2011年には60億ドルにも及んでおり、この10年で目を見張る成長を遂げてきたことが分かります。

Herbalifeの成長の背景の1つに、他の健康食品企業と異なり、小売店での販売の代わりに個人契約を結んだ営業マンにコミッションベースで販売を委託していることが挙げられますが、最も大きな背景として存在するのが、積極的な国際展開です。

Herbalifeは日本やイスラエルを含む有望な海外市場に積極的に展開し、その結果として企業全体の売上を劇的に拡大してきたのです。

しかし、「この劇的な成長は、Herbalifeの持続不可能な成長を隠している」と多くの専門家は主張します。

その主張を裏付けるのが、以下の2つのグラフです。

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1番目のグラフは、Herbalifeが日本に進出した1993年から2005年までの年間売上の推移を示しています。

ご覧の通り、1998年のピークを境に、継続的に売上が減少していることが見て取れます。

同様の推移を見せるのが、イスラエルにおけるHerbalifeの年間売上を示す2番目のグラフです。

イスラエルにおいても1994年以降急激な売上の急落を示しており、両国ともにピラミッド型の売上推移を記録しています。

日本とイスラエル以外にも、フランス、スペイン、ドイツなどを含む主要国において同様のピラミッド型の売上推移が記録されており、専門家はこの急速な成長と墜落を、Herbalifeの営業委託モデルに原因があると説明しています。

新市場におけるHerbalifeの急成長要因は、営業委託を任された最初のベンダーが、更に下の階層に位置する個人営業マンに商品を売り捌いた結果であり、プロダクトが実際に消費者の手元に届いた訳ではない為、市場が営業マンで飽和した瞬間、売上が急激に減少するのは当然というわけです。

実質的に各市場に置ける売上は減少し続けている一方で、急速な国際展開によって、全体の売上は上昇の一途を辿ります。

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進出済みの国の数(赤の線)と企業全体の売上の推移(青のバー)の両方を併せて示した上記のグラフは、両数値が相関関係にあることを示しており、各国のピラミッド型の売上推移と併せてみると、この主張の妥当性がよく分かります。
もちろんこのまま国際市場への拡大を続ければHerbalifeの成長は安泰ですが、国の数に限りがあることを考えれば、この「グロース」が持続不可能であることは一目瞭然

ビジネスモデルの改革無しに、持続可能な成長は望めないと言えるでしょう。

Groupon、LikeALittleの例

「世界展開もしてないし、営業委託もしてないし、ピラミッド型の売上推移も観察出来ないので、ウチは平気」

これは全く持って甘い認識であると言えるでしょう。

持続不可能な成長の主要因はピラミッド型の売上推移にある訳ではなく、「サービスが黎明期の新鮮さを失った後、需要が縮小する」ことにあるからです。

例えばGrouponの例を見てみましょう。

groupon-logo11

Grouponは過去10年間で最も急速に成長したスタートアップの1つであり、IPOの際には150億ドルの市場価値を記録。

Grouponの急速な売上の成長は、アメリカ国内における新たな都市への展開に起因しており、Herbalifeの成長モデルに相通じる部分がありましたが、以下の問題を理由に各都市における売上は減少の一途をたどります。

①参加企業の1/3が提携によって損を出した

②その結果、企業のリテンションが減少した

③サービス利用者あたりの売上が減少した

④カスタマーごとのクーポン利用回数が減少した

結果としてGrouponの株価は下落し、市場価値もピーク時の1/3にまで下落しました。

likealittle
日本ではあまり知られていませんが、ソーシャルネットワーキングサービスのLikeALittleも同様の末路を辿っています。

ローンチ直後、たった6週間で2,000万PVを記録したLikeALittleは、Facebook同様に、大学ごとに徐々にサービスを拡大していく成長戦略を採用しました。

しかし、多くの大学において学生が一週間ほどでサービスの利用を停止し、利用可能な大学を拡大することで一時的に見せかけの成長を演出するも、結果としてLikeALittleはサービス提供の停止を余儀なくされました。

上記の3つの例から、持続不可能なグロースはサービス展開の規模やビジネスモデルにかかわらず存在することが分かります。

経験から得られること

本記事で紹介した他企業の経験から、スタートアップは2つの教訓を学べるのではないでしょうか。

①まずはセグメントを絞って持続的成長を達成する

サービス提供地域の拡大は、ほとんどのビジネスにとって重要な目標です。

しかし、ビジネスの拡大に目が眩むあまり、持続可能な成長を維持するという長期的な目的を見失ってしまえば、上記で紹介した例の二の舞になりかねません。

今注目のサービスであるAirbnbやUberは、ローンチ当初に地理的なセグメントを絞って、カスタマーの意見に耳を傾けることで現在の成長に至っています。

地理的なセグメントに限らず、年齢を含むカスタマーのタイプによってセグメントを絞るのも効果的でしょう。

②離脱率に注目する

持続的な成長を測る上で欠かせない指標が離脱率です。

売上の面でどんなに成長していても、セグメントごとに観察を行い、どれか1つのセグメントにける離脱率が高ければ(リテンションが低ければ)、それは持続不可能な成長の前兆を告げるサインかも知れません。

セグメントごとの離脱率が高くないかを観察することはもちろん、コホート分析を行い、アップデート等によりサービスの仕様が異なるフェーズで獲得したユーザーが異なるエンゲージメントを見せていないかなど、詳しく観察することが推奨されます。

グロースハックジャパンでも紹介したJustin Caldbeck氏による「プロダクトの重要性」に関する記事の中でも、エンゲージメントに関する指標を観察することの重要性が指摘されています。

最後に

ややビジネス目線の記事にはなりましたが、一見順調に見える「成長」も、実際は持続不可能なケースが存在することを強調しすぎることは出来ません。

今後の成長を描く上で、そして現状の成長曲線をしっかりと把握する上で、本記事を1つのインサイトとして活用頂ければ幸いです。