edited by Ryutaro Mori

午前7時。

渋谷に続々とシード期のベンチャー起業家が集まり始めた。

Skyland Ventures(代表 木下慶彦氏)が開催するStartup Schoolへの出席が目的だ。

昨日記念すべき第1回を迎えた若手起業家向けのこのイベントは、起業家の学びの場、そして起業家や投資家の出会いの場としての役割が期待されている。

今後は週に1回、1名の起業家と1名の投資家をメンターとして招いての定期的開催を目標に動いていると、主催者の木下氏は語ってくれた。

本日は、LINE株式会社代表取締役社長森川亮氏、株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ代表取締役社長 田島 聡一氏を迎えて行われた第1回Startup Schoolの様子をお伝えしたい。

田島氏による講演に加え、新進気鋭の起業家5名によるピッチコンテストは、起業間もないスタートアップや起業を考える読者の皆様にとって必見の内容だ。

CAVのミッション

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アジアにおける次世代のインターネットビジネスに最も大きなインパクトを与えるベンチャーキャピタルを創る

株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズの経営理念である。

今回登壇頂いた田島氏が代表取締役を務めるこのサイバーエージェント・ベンチャーズは、経営理念の通り、アジアを中心に8カ国11の拠点を構えるVCだ。

アジア市場と言えば、GDP、スマホ所有率、そして若年層の人口が今後安定的に上昇することが期待される有望新興市場であり、サイバーエージェントの他にもEast VenturesやGREE Venturesが続々と投資活動を行っている。

ITと言えばシリコンバレーのイメージが根強いが、スマホ時代はアジアが強い。アジアにグーグルなどを超えるベンチャーが育つシリコンバレーを創りたい。

そう意気込む田島氏は、新卒で銀行に就職した後、サイバーエージェントに転職。

過去にはウノウ、KAKAO TALK、トレンダーズ、クラウドワークス、WebPay、Coineyなどへの投資を経験し、現在も15社ほどを担当していると言う。

今回の講演では、自らの実戦経験を基に、田島氏がスタートアップに求めるクオリティを語ってくれた。

資金調達に必要なたった3つの質問

スタートアップが資金調達をするには、たった3つの質問をすればいい。

昨日の記事「リスクを恐れず巧みにピヴォットする為の5つの鍵」でもお伝えした何かと苦労の多い資金調達だが、田島氏はたった3つの質問で自身の取り組む事業の可能性が簡単に見えてくると語る。

①マーケットは大きいか?

「有望な市場を選ぶことは、事業を成功させる上で最も重要なこと。魚がいない池に釣り竿を下ろしても魚が釣れるわけがない。たとえどんなに良い起業家でも、やっていることが小さくて失敗する例を何度も見てきた。」

そう語る田島氏は、マーケットの選定基準を詳細に語ってくれた。

・マーケットの種類

マーケットは大きく分けてフロー型とストック型の2種類に分けられる。

フロー型とは、事業そのものが売上をあげ、収益を生み出すことが出来るソーシャルゲームやスマホゲームに代表されるマーケットモデルを指す。

フロー型のマーケットサイズは、ユーザーが抱えている課題を解決する為に支払うお金、もしくはユーザーが欲求を充足するために支払うお金で決まる。

一方で、ストック型のマーケットとは、マネタイズするには時間がかかるが、その会社が持つユーザーベースやデータベースが大きな企業価値を生む事業を指す。

ストック型のマーケットサイズは、ユーザーベースの価値やデータベースの価値、つまりいくらで買収されそうかということを基準に評価される。

フロー型に比べてP/L(損益)が立たないストック型マーケットは、日本ではまだまだ評価されづらい現状にあると田島氏は語る。

一方で、海外ではツイッターのようなストック型の企業が現時点で大赤字を抱えているにもかかわらず投資家からは高い評価を受けており、日本でもこの風潮を確立したいと田島氏は語った。

田島氏は今後アジア市場の成長を見越した米系企業が日本のベンチャーを買収するようになるとの予測も披露し、ストック型モデルの可能性には決して悲観的ではない様子が伺えた。

・イノベーションのタイプ

田島氏によると、イノベーションのタイプは必要性と潜在性の観点から大きく6つに分けられる。

以下の表を見ると分かる通り、右下に行けば行くほどイノベーションの難易度が上昇する。

LINEは潜在的な課題を解決したからこそこれだけのビッグビジネスに成長出来たという見方も出来るだろう。

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ここで重要なことは、ユーザーの課題や欲求の強さをひとりよがりに判断せず、さまざまな人にヒアリングし、冷静に課題や欲求を捉えることが出来るかどうかであると田島氏は語る。

マジョリティに求められているか、お金を払ってでも解決したい欲求や課題か、事業についてエレベーターピッチすることが出来るかどうかが重要な基準になると言う。

②ベストな経営チームか?

経営チームの手腕を判断する上で、「学歴はどうでもいい」と田島氏は言う。

重要なことは、経営チームが自らの欲求を実現するために取り組んでいる事業内容かどうか。

自己の欲求の実現をモチベーションとすることで、ビジネスになった時大きな成果を発揮し、どんな困難に出くわしても精神的に折れづらい効果があると言う。

次に、経営者自身が、自らの強みと弱みをしっかり認識出来ているかどうか。

出来過ぎる経営者ほど人に任せられないことで、逆説的に困難が生まれるケースを田島氏自身何度も見てきたと言う。

最後に、事業が有望であることを前提として、積極的にチームメンバーや投資家を集められるかどうかも有望な経営者の基準の1つだそうだ。

田島氏は、Startup Schoolの主催者である木下氏や独立系ベンチャーキャピタリストの佐俣アンリ氏が上手にSNSを活用しているように、経営者も同様の活動を通じて積極的な採用及び広報活動を行うべきだと語った。

③戦略はクリアーか?

サイバーエージェントベンチャーズは、投資検討を兼ねて、戦略や成長シナリオを一緒に議論する合宿などを企画している。

投資後は、一緒に考えた成功シナリオに沿って最速で最良のサービスをつくるべく全力で支援していくというスタンスである。

戦略構築において、CAVでは特に以下の3点にこだわっているという。

・徹底した(UI,UX含む)ユーザー視点。マネタイズはすぐに出来なくて良い。

・未来を限界まで見通し切ること。とにかく仮説を立てまくる。

・大きな世の中の流れに逆らわない。発展する中で必ず何かが失われ、更に発展を続ける中で失った何かを取り戻そうとする世の中の普遍的な流れに乗る。

最後に、田島氏は①マーケットの大きい事業を、②ベストな経営チームで、③クリアーな戦略でやればどれくらい大きな事業になるか、この点を集中して事業計画やピッチを行うことが大切であると語ってくれた。

今までは、クラウドワークスやKAIZENなど、事業会社で経験を積んだベテラン経営者にシード段階で投資を行っていたCAVだが、これからは若手にも経営陣がじっくりと腰を据えてビジネスに集中出来る金額を投資していきたいと言う考えも披露した田島氏。

金融よりも事業に強いCAVが、どのような投資を通じてアジアと日本のハブに なっていくのか。今後の展開が非常に楽しみだ。

5社によるピッチコンテスト

CAV田島氏の講演に引き続き、シード期のスタートアップ5社によるピッチコンテストも行われた。

田島氏とLINE株式会社代表取締役森川亮氏を審査員に迎え、プレゼン5分、Q&A10分の熱い闘いが繰り広げられた。

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(ピッチを行うdely堀江氏と耳を傾ける田島・森川両氏)

・大好きなお店のおしゃれで美味しい出来たての料理を自宅やオフィスで食べれるデリバリーサービス

・デリバリーをやりたいけど、小さいお店だと黒字化するまでが大変と言う課題を解消

・近年中食(家庭外で調理された食品を購入して持ち帰ったり届けてもらうなどし家庭内で食べる食事の形態)産業が盛り上がりを見せている

・売上の一部を店舗側から徴収

・一般ユーザーの自転車移動を利用した物流システム(クラウドソーシングによる配達)により、固定費の削減に成功

・未配達などのトラブル防止のため、成果報酬型

・現在は試験運用中。6月の半ばにiOSアプリを発表予定。

・将来的に、フード以外にも洗濯などの日常のちょっとしたお遣いにも進出したい

【Q&A】

Q. 値段より、スピードとか信頼が大事だと思う。その点の心配は?

A. 配達に遅れが出ないように配達距離に制限を設けています。また、クラウドソースする人材に欠如がでないように、現在はアルバイトとクラウドソーシングを半々で採用しています。今後は、後者の比率を高めることが目標です。

信頼に関しては、クレジットカードの記録を取ったり、面接をしたり、配達員をしっかり調査しているので、ユーザーは安心出来ると思います。

現在は、フェイスブックと連動して、「この配達員が来ますよ」って顔が分かる機能も実装中です。

Q. 今後似たようなサービスが続々出てくると思うが?

A. 物流にこれだけ力を入れているのはdelyだけだと思います。この点で他社との差別化を図れると考えています。

Q.配達員のメリットは?

A.配達員は求職中の方や学生が多いので、副業感覚でやってもらっています。今後は雨の日のレートを上げたり工夫することで人員の調整に努めて行くのと同時に、配達だけで食べれる文化を創りたいと考えています。

LOUNGE

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(LOUNGEを提供するバレット山崎氏によるピッチ)

・テーマは、常時接続コミュニケーションサービスとスマホを使った新しいコミュニケーション文化の創造

・15人同時でボイスチャット出来る

・独りで家にいるときなど、特に話すテーマも無いが、とりあえず寂しさを解消したいときに友達と一緒にいる感覚になるコミュニケーションツール

・調査によると、生活の中で充実感を感じる時は「家族団らん」や「知人と会合」という回答が多く、この需要を満たせる

・ニーズは世界中に普遍的に存在する

・利用フローは、①Facebook/Twitterを使ってログイン→②グループを選ぶ→③会話を始める

・一定の音量に達しないとマイクが起動しない仕組みになっており、複数人によるチャットで起こりがちな雑音問題が解消出来る

【Q&A】

Q. 初期ユーザーはどんなユーザーを想定していますか?

A. 自宅に帰っても時間に余裕があり、ネットにコミュニケーションを求める学生を中心に考えています。自社が所有するPR網を駆使して、効果的にマーケティングを行いたい考えです。

Q. 会話出来るのは、友達限定なの?

A. はい。FacebookとTwitterログインを採用しているので、既にSNS上でつながりのあるメンバーのみと会話が出来ます。

今の若者は地元の友達とのつながりもネット上に求める特性があり、その点を考慮しています。

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(BrainWarsを提供するトランスリミット高場氏によるピッチ)

・遊びながら、脳力を鍛える脳トレゲーム

・友人とその場で戦うことも出来るし、その場でなくても非同期対戦が可能

・非同期対戦により、いつでもどこでも誰とでも対戦出来るのが魅力

・子供から大人まで、国境を超えて使える

・ローンチ後、ノンプロモーションにもかかわらず20日で2万ダウンロード

・ソーシャル上で非常に高い評価を受けている

・1日1万バトル行われてる

・フリーミアム課金モデル(好きなゲームを選べる+ライフの回復が可能)

【Q&A】

Q(LINE森川氏). アプリとしては非常に面白いと思うが、経営的な観点からはどうだろう?

A. ユーザー課金の他に、タイアップ事業なども考えています。

例えばマクドナルドに行って、ドナルドと対戦すると、クーポンやサービスが当たる仕組みなども作っていきたいなと。

Q(LINE森川氏): これはLINEで出すってどうなの?(会場沸く)

A. 是非! !!

Categorific

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(Categorificを提供するIkkyo Technology横川氏によるピッチ)

・コンピュータービジョン技術による画像フィルタリング・マッチングサービス

・画像・映像データの中身を機械が理解し、自動的に紐付けすることにより、マニュアル労働を大幅削減

・手元にある画像や映像データを活用出来ていない、過去のデータが活かされていないという潜在的な課題を解決

・例えばLINE Cameraで写真にスタンプを貼りたいとき、現状ではスタンプを探す作業を含む6つのステップを踏む。一方で、Categorificを使うことによって、赤ちゃんの写真を読み込んで自動でスタンプを推奨することが可能になり、ステップが3ステップにまで縮小。

・LINEスタンプを購入したい時、似たようなスタンプがまとまっていると選びやすい。こうしたニーズも、Categorificを使うことによって人間の処理能力をサポートし、選びやすくなる。

・レコメンドされたコンテンツのクリック数に応じた成果報酬制

・一年間で今1兆枚の写真が撮影されている。今後はこの数がもっと増えることで、ニーズは更に増す。

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(Tabikul原口氏によるピッチ)

・ツアー旅行は嫌、計画や手配は大変、現地の生の情報が欲しいといったニーズを解消する旅のコンシェルジュサービス

・旅のコンシェルジュは、クラウドソーシングを活用

・現地に実際に住むコンシェルジュが旅を計画

・ただでさえ面倒だった旅の計画がスマホで更に面倒になってしまった現状を踏まえ、「スマホ×旅行×EC」市場を取りにいく

【Q&A】

Q. プランを作成する人はどのくらい儲かる?

A. 一件成約すると、1万円が固定で入ります。プランの作成にかかる時間がおおよそ2~3時間と言うことなので、時給としてはかなり高いと思います。

Q. プランの品質担保は?

A. 登録してすぐにプランを提案出来るのではなく、一度練習投稿を設けて試験を行っています。また、プランの採択はコンペ形式を取っているため、これでクオリティを担保することが可能です。

Q. プランを全部パクられたら?

A. 予約方法等の一部詳細は公開していません。なかなか旅の計画を立てることが苦手なユーザーを対象にしているため、もしそう言った考えが浮かんでも、一から自分自身で予約を行うと言うことは考えづらいと思います。

ベストプレゼン賞

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田島氏と森川氏によって、今回のベストプレゼン賞はdelyに決定しました。

森川氏は、選考の理由に「物流へのこだわり」を挙げ、その点が今後どうなるかまだ分からないが、ある程度物流の課題や解決法が見えているという点で今後が期待出来るとdelyを評価していました。

最後に

講演やピッチイベントはもちろん、イベント後も参加者それぞれが積極的に挨拶や名刺交換を行っており、まさに主催者の木下氏が目指す「起業家の学びの場、そして起業家や投資家の出会いの場」としての役割が第1回目から見事に機能していたのではないか。

今後も日本を代表するスタートアップからメンターの参加が続々と決まっており、スタートアップ界隈に身を置く物であれば目が離せないStartup Schoolだ。