さて、計9回の連載記事の内、今日は第2章目です。
グロースハックという概念が市民権を得て、仕事の場が広がっていくにつれ、グロースハッカーになろうと意気込んでいる人は、果たして自分のその素質があるのかどうか、ということに不安を覚えることもあるかもしれません。
グロースハックに限らず、どの分野においても頭角を表す人材はいるものですが、ここではひとまず、グロースハッカーにまつわる通説の信憑性と実情を見ていくことにしましょう。
本連載の目次:
Chapter 2:グロースハッカーに必要な素養とは?
目次
通説1:グロースハッカーになるためにはコーディングが必要
通説2:マーケターはグロースハッカーにはなれない
通説3:グロースハッカーになるためには非道義的でなければならない
真相1:グロースハッカーは非常に分析力に長けている
真相2:グロースハッカーの能力はT字型である
真相3:グロースハッカーは右脳タイプである
真相4:グロースハッカーは偏執狂である
まとめ
通説1:グロースハッカーになるためにはコーディング能力が必要
Udemyの共同創業者であり、自分自身もグロースハッカーであるGagan Biyaniは、
多くのグロースハックに関する記述は限定的過ぎである。著名なグロースハッカーの多くは日頃からコードを書いていないことからも、グロースハッカーが正統なエンジニアである必要ではない、と私は考えている。
と述べています。
グロースハッカーにはコーディング技術が不可欠である、という固定観念は、今日のグロースハック手法がコーディングに大きく依拠していることを鑑みれば当然かもしれません。
しかし、実際のところグロースハッカー自身がプログラマーである必要はないのです。
グロースチームにプログラマーが必要であることに間違いはありませんですが、全員が全員プログラマーである必要はありません。
実際にありうる以下の条件で思考実験を行ってみましょう。
とあるグロースハッカーは構成メンバーが3人のスタートアップを起業しました。自分自身、フロントエンド・ディベロッパー、そしてバックエンド・ディベロッパーの3人です。
起業したばかりでまだグロースハックの「グ」の字も見えておらず、2人のディベロッパーはそれまであまりグロースに関して考えたことがありません。
もちろん彼らはグロースが重要であることは重々わかっており、グロースに関して学べるということに心躍らせていますが、それまでに一度もプロダクトのグロースに関わったことがありません。
起業後、会社としての初日、グロースハッカーは残りの2人に、ユーザーの行動変化に関する分析(イベント・ベースト分析)の概要とその重要性を説きます。
その後、グロースハッカーは自社プロダクトに関して追跡してほしい顧客動向の項目(アカウントの新規作成・既存ユーザーの新規ユーザーへの自社コンテンツの紹介具合(referral)・トラフィック等々)のリストを作成し、グロースハッカーが活用すると決めたツール、ここではKISSmetricsとしておきましょう、を提示します。
彼は2人のディベロッパーに、自社プロダクトの顧客動向を追跡する際、技術的に困ったことがあったときに参照すべき資料の在処を教えた後、グロースハッカーはその2人に追跡プログラムを実装するよう指示し、彼らに一任します。
数週間後、グロースハッカーは再び社員全員に招集をかけ、ファネル分析を用いて各コンバージョン・プロセスにおける目標設定を行います。
ここで、スタートアップチームは自社プロダクトへの訪問者の新規ユーザーへのコンバージョン率に着目することに決めました。
グロースハッカーの仮説は、自社プロダクトにオンライン上で訪問した人々がユーザー登録をすることなく、リンク先や他のウェブページに行ってしまうのはプロダクトの広告・宣伝文句の意味合いがわかりにくいからだ、というものでした。
そこで、彼は広告を新たに考え、フロントエンド・ディベロッパーがそれをサイト上で綺麗に表示されるようにコーディングしたところ、新規ユーザー登録の月間コンバージョン率は7%も上昇しました。
つまり、チームが全体としてグロースハックを成し遂げたのです。しかし、ここで3人の内の誰がグロースハックを可能にしたのか、ということを問うたならば、必ずしもグロースハッカーはエンジニアである必要はないということが見えてくると思います。
参考記事:
知らなきゃまずいグロースハック/スタートアップのカタカナ専門用語26選
「AARRR」今更だけど絶対抑えておくべきグロースハックのコンバージョンの見方
通説2:マーケターはグロースハッカーにはなれない
どのようなわけか、マーケターはグロースハッカーの良きパートナーではなく、対極に位置する人材だと見られるようになってしまいました。
しかし、むしろどちらかと言えば、グロースハッカーとはグロースのみに焦点を絞ったマーケターと称すべき存在なのです。
マーケターはコピーライティングに関する優れた能力をしばしば持ち合わせており、既に他の人より一歩抜きに出ていると言えます。
ここで再度、上で行ったグロースハッカーと2人のエンジニアに関する思考実験を振り返ってみましょう。
もしマーケターがコピーライターとしての能力を活用して、自身の目的をグロースに集中させて、コピーライティングによるユーザー獲得への影響を測定するためにイベント・ベースト分析を行ったのならば、これぞまさにグロースハックを実行したことになります。
つまり、データの分析力とWeb技術に関するノウハウを兼ね備えたマーケターこそが最もグロースハッカーに近いと言えるでしょう。
実のところ、「グロースハック」の生みの親、Sean Ellisも自身のことをDropboxに勤めた最初のマーケターだと呼んでいます。
グロースハッカーという表現が誕生する前まではSeanは自分の役職をマーケターだと言っていたのです。
グロースハッカーの祖先はマーケターだということは忘れないようにしましょう。
通説3:グロースハッカーになるためには非道義的でなければならない
人は誰しも、目標を唯一つに設定してしまうと(今回のケースでは「グロース」)自分以外の人々にとっては有益ではない選択をしがちになる、というリスクがあります。
どのグロースハッカーもどこかで自分の目標と周囲のニーズとの間で線引きをする必要がありますが、この線引きが上手くいかないこともあります。
例えば、Facebookによる人々のソーシャル疲れを解消しようと始まったSNS「Path」は、既存ユーザーの電話帳に入っている連絡先情報を獲得するために度の過ぎた連絡先獲得施策を行い、不評を買ったことはまだ記憶に新しいと思います。これはまさに自社プロダクトの成長のみに囚われてしまったが故の帰結と言えるでしょう。
一方、Airbnbの例をとると、彼らは自分たちの成長に復すと共にユーザーのニーズにも応えていたという点においても非常に優れていました。
Airbnbは新規ユーザーを獲得するためにChapter 1でも述べた通り、Craigslistを活用しましたが、Craigslist上にAirbnb経由で掲載されたユーザーの投稿は、いつでもCraigslistの経営方針次第で、削除される可能性がありました。しかしPathでは、ユーザー自身の名前でばらまかれたスパムメール(Pathの告知)をユーザーが取り消すことは不可能でした。
しかし、ここで言いたいのは、ほとんどのグロースハッカーはそもそも倫理観に関して考えていないということです。
彼らは、ただコンバージョン率を上げてくれる無害なプロダクトを創造し、知りうる全ての流通経路を活用することによってプロダクト普及させているに過ぎないからです。
グロースハッカーの行動は非道儀的なのではなく、純粋に合理的なのです。
スターウォーズに例えるならば、どのグロースハッカーもダークサイドの魅惑的な力に取り憑かれるのか、それとも誘惑を振り切ってジェダイになるのかを選択しなければなりません。
ここまでグロースハッカーにまつわる通説とそれらが必ずしも正しくないことを見てきました。そこで以下では、グロースハッカーとは実際にどのような種族なのかを見ていきます。
真相1:グロースハッカーは非常に分析力に長けている
まず、言えることは、どのようなバックグラウンドを持っていようと、全てのグロースハッカーはデータ分析をこよなく愛しているということです。
彼らがなすこと全てにデータ分析は関わってきます。それがフロントエンドであろうとバックエンドであろうと。
・データの分析結果が真実を語っている
グロースハッカーのデータに対する接し方は上のクロポチの通りです。
従来、マーケティングはひどく情緒的な側面を孕んでいました。
タイムズスクエアの広告用掲示板に掲載された広告のROIはなんだ?、知っている人はいないけど、見栄えがいいからいいんじゃない?といった感じで。
しかし、時代は変化し、今や一個人がどれほどカリスマ性があるかや、ひとつの発想が如何にすばらしく見えるかなどといった情緒面に訴えかける施策は無意味であり、データの解析結果がプロダクトの善し悪しに関する全てを物語っているのです。
Etsyの主任エンジニアであるDan McKinleyが語った、無限スクロール導入に関する彼らの実体験が実例を良く表していると言えます。
手芸品を扱うEtsyは5ヶ月もの歳月を費やし、プロダクトを掲載するためのウェブサイトに無限スクロールを新たに導入しました。もちろん、最初は彼らもその見栄えの良さに歓喜しました。
しかし、実際にAARRRで言うレベニュー(revenue)に関するデータが入ってきたところ、導入以前に比べてユーザーの購買量が減っていること気付ました。これを受け、彼らは即座に無限スクロールを廃止したそうです。
以下がDanが自身の説明の際、用いる画像ですが、確かに見栄えはいいですね。しかし、見栄えの良さだけでは不十分なのです。
この教訓から学べることは沢山ありますが、ここではデータ分析に関してのみ取り上げると、もし彼らがデータの分析結果を重視していなければ、この過ちに気付くことはなかっただろう、ということです。
データ分析はグロースハッカーに客観的事実を伝えてくれるのです。
・データ分析はグロースハッカーに視点を変えるきっかけを提供する
自社のプロダクトや活動に関するデータを蓄積してくれるシステムがあるとき、それらのデータによりグロースハッカーの視点が変わることが往々にしてあります。
例えばある時までは、リファラル(referral)ループにより多くの資金を割くことは全く頭になかったかもしれません。もしかしたら、ユーザーがどのように反応するのかを見るためだけの施策として試しに導入したに過ぎない機能だったかもしれません。
しかし、いざユーザーデータをじっくりと解析してみると新規ユーザーの獲得の内20%はこのリファラルループから来ており、この経路から来たユーザーのライフタイムバリューがユーザーの全体平均よりも高いことに気付きます。
さらに、そのリファラルループをさらに効率化できることも知っていたため、そこからの2週間はこの部分にグロースハックチームとして注力することにしました。
データの分析結果はグロースハッカーにすべきことの優先順位をつけるうえで、必要な指標なのです。
・データ分析は成功体験を他の事例にも応用可能にする
データ分析を念入りに行わないと、成功体験を効率的に活かせないことになりかねません。
もし自社の収益が3期目よりも4期目の方がよかったということがわかっていたとしても、なぜ収益が向上したのかがわかっていなければ、何もわかっていないことに等しいのです。
自社のプロダクト自体が魅力的だったから新規ユーザーを獲得できたのでしょうか? 既存ユーザーのレベニューへのコンバージョン率が向上したのでしょうか?それとも、数日前にウェブサイトデザインをリニューアルしたことによって今まで使われてこなかった機能がユーザーに浸透し始めたからなのでしょうか?
もしあなたが収益向上につながった原因を突き止めることができたのならば、それを繰り返すことができるとともに、収益向上に結びついていないこと突き止め、止めることも可能になるのです。
・データの分析結果はグロースハッカーに未来を予測することを可能にする
企業は日々賭けに出ています。彼らは競合分野、マーケットのニーズ、時代の潮流に会わせた経営方針とは何かを常に推測しています。
クロポチで予測と言っていますが、企業の未来像とはどこまでいっても憶測に過ぎません。
しかし、データ分析に基づいた帰納的理由付けは、明日に関する判断を昨日のデータを基に行うことを可能にしてくれます。
翌朝、太陽は東から上るでしょうか?これに対する答えを論理的・演繹的に導くことはできませんが、帰納的にはこれまでもずっとそうであったから明日も太陽は東から上るだろうと答えることができます。
自社の経営状況に関するグラフから、ある一定した傾向があることを見て取れた場合、その傾向が未来永劫続くかどうかの保障はありませんが、構成しているファクターが全て同じに保たれたのならば、おそらく続くことでしょう。
この手法はあまり科学的ではありませんが、0から推測するよりはよっぽどマシだと言えます。
未来を分析結果から予測する上で、相関関係と因果関係の違いも重要になってきます。
もし、分析結果がAとBに同じ傾向があることを示しているならば、その傾向に関する情報を用いて、ユーザーの動向に変更を加えることが可能になります。
AとBがたまたま同じカテゴリーに属していて互いに相関があるのか、それとも一方が他方を引き起こしている原因なのかを、A、Bのどちらかに変更を加えてみることによって判断できることがあります。
データ分析によって因果関係を発見したとき、グロースハッカーはグロースのための施策を行う上で強力な武器を手に入れたことになるのです。
真相2:グロースハッカーの能力はT字型である
グロースハッカーの能力はT字型であることが要求されます。つまり、Tの横棒はグロースハッカーなら誰しもが修得しておくべき、一般的な能力や教養を表しています。
グロースハッカーになるためには広範な領域にわたる基礎的な知識は不可欠です。これにはWeb・ソフトウェアに関する基礎的な背景知識に加え、心理学などと実に多岐にわたります。
しかしながら、一般教養のみを修得していたのではまだグロースハッカーにはなれません。所謂、自分の専門領域、自分が特化したスキルが必要なのであり、T字の縦棒がこれを表しています。
例えば、あなたはユーザー心理に関するノウハウを全てわかっていて、ユーザーの内85%がプロダクトのコアバリューを実感できたとします。
ファネル(funnel)の一部分でも非常に効率的に設計できたのならば、グロースのための核が形成されたことになり、その周囲をハックしていきやすくなるのです。
ここまでT字型の能力を身につける重要性を強調してきましたが、なんと一流のグロースハッカーはT字型でもまだ飽き足りません。
彼らはさらに▼字型の能力(V字型と呼ぶことにします)を身につけようとします。
より多くの領域を習得していくにつれ、いくつもの専門領域が形成されていくことになり、結果的に横棒の下に何本も縦棒があるV字型の能力を身につけていくことになるのです。
グロースハックの過程を外部から見た人にとっては、グロースの仕方・速さが不可解に写るかもしれません。しかし、実際にはグロースハッカーとは奇術師というよりは、マラソン走者に近い存在なのです。
特別な仕掛けがあるわけではなく、むしろグロースを維持するに必要な能力を習得するための泥臭い努力が下積みとしてあるのです。
フルマラソンを完走したいならば、事前に入念かつ的確な準備が必要となります。それと同じように、プロダクトを成長させたいのならば、あなた自身がT字型、V字型、ひいてはU字型の能力を修得しなければなりません。
マラソンにもグロースハックにも近道はないのです。
参考記事:
真相3:グロースハッカーは右脳タイプである
グロースハッカーがデータ分析を重んじるあまり、彼らが右脳タイプの人間であることが忘れられがちです。
分析も非常に重要ですが、それとともに好奇心、創造性、そして事例証拠や定性的な事実に対して興味を持っていることも負けず劣らず重要なのです。
プロダクトとは斬新さと科学的根拠に基づいた判断の絶妙なバランスのもと、爆発的に普及するものです。どちらか一方に偏ってしまわないようにしましょう。
・好奇心の重要性
好奇心の欠如はプロダクトの失敗を招きます。グロースハッカーは新しい発想をしてみたり、新たな施策を行ってみたりと、常に好奇心に旺盛なのです。
もしマニュアル通りのことしかしたくないのであれば、中間管理職がお似合いでしょう。指図を受けたいのならば、自衛隊に入隊すべきでしょう。グロースが欲しいのなら、好奇心が絶対必要なのです。
今まで試されてこなかったアイディアの内、確かに馬鹿げたものもあるでしょうが、もしかしたら単純にそのアイディアが上手くいくかどうかを見てみたい、という好奇心を持った人がそれまでにいなかっただけかもしれません。
好奇心から出てくる質問例を何個か載せますと…
- ・ β版のみではなく、正規のプロダクトでも新規ユーザーの獲得方法を紹介制のみにしてみたらどうだろうか?
- ・ アカウントの使用をやめさせないように、毎週ユーザーに何かしらの作業を行わせたらどうだろうか?
- ・ プロダクトの利用料金を無料も選択肢としてユーザーに決めさせたらどうだろうか?
- ・ 私たちの会社が昼食として注文した中華料理の宅配料金を支払ってくれたユーザーにプロダクトのアップグレードを無償で提供してみたらどうだろうか?しかもそれを私たちがTwitterで呟いてみたらどうなるだろうか?
- ・ もし毎月、初日だけ自社ホームページ全体を業界のスーパースターのオマージュに作成し直してみたらどのような効果があるだろうか?
- ・ ウェブサイト上に出てくるエラー表示の文言として、熱狂的な人気を誇った古典的な映画内の有名なフレーズを引用したらどうだろうか?
- ・ カスタマーサービスセンターに寄せられた要望・苦情に対して、その事項に関連する面白おかしいYoutube動画のURLを提示したらどうなるだろうか?
もちろんこれらのアイディアの内、大半は馬鹿げているでしょうが、現に私はこうやって何万人が見ることができるサイトにこれらを掲載していることになります。
これと比べたら、皆さんが自分しか見ることができないノートに阿呆らしいアイディアを書き記すことなんて恐れるに足らずです。
好奇心が不安を克服できる唯一の材料なのです。自分の選択が間違っているかもしれない不安。周囲と自分が違うことによる不安。
本当に馬鹿げたアイディアを考える根性がなかったら、素晴らしいアイディアを実行する機会も見逃してしまうことでしょう。
・曖昧さは敵ではない
論理学者や数学者は全てが二進数で記述される世界を切望しています。全てが「はい」か「いいえ」で決まる世界。計画の隅から隅まで明瞭な世界。
しかしながら、このような世界は現実にはありえません。
私たちが住む世界では、疑問に対する答えに「なんとなく」や「もしかしたら」などといったグレーな領域で溢れ返っています。
グロースハッカーはこのことを常に念頭に置いておかなければなりません。
データ分析結果がレベニュー発生までのフローの中で、ユーザーがクレジットカード決済のページでプロセスを中断して二度とそのページに戻ってきていないことを示しているとします。
この対策として、あなたはデータとずっとにらめっこしたまま疑問を抱えているか、それともStarbucksに行って、見知らぬ人に自分のクレジットカードを使って支払わせてその行動パターンを観察することが考えられます。
後者を実行することによって必ずや何か得られることでしょう。もちろん、一人だけのサンプルでは統計的に有意な判断を行うことはできませんが、全ての問題解決に大きな標本母体が必要なわけではありません。
Starbucksで花子さんが自分のクレジットカードで支払いをしているのを見て、あなたはクレジットカード決済のページにクレジットカードのセキュリティーコードに関する説明を記載しておらず、ユーザーがセキュリティーコードが何なのかをわかっていなかった可能性があることに気付きます。
統計的に有意でなくとも、時には一つの事例で十分なのです。
真相4:グロースハッカーは偏執狂である
四六時中グロースに関して考えを巡らせるだけの根性を皆さんは持ち合わせているでしょうか。
もちろんはじめの1週間は楽しいでしょう。しかし、それが6ヶ月続いたとしても楽しいと言えるでしょうか。全てを二の次にしてまで、グロースに必要な目標達成に固執できるだけの器を備えているでしょうか。
以下になぜグロースという強迫観念に取り憑かれる必要がある理由を述べます。
・上手くいく施策は7つ目ではなく、213個目である
もしグロースハックがたった5 ~ 10個の施策を行った結果として、それがユーザー獲得につながり、歳入に結びついたとしたら、これほど楽で美味しい話はありません。
真実は、グロースハックが簡単に見えるのは、自社プロダクトのグロースに最適な手法を発見してからに過ぎません。それを見つけるまでは、何百もの失敗を繰り返す他ないのです。
・小さな工夫の積み重ねによって、初めて競合プロダクトを打ち負かすことができる
時に、グロースハックに必要なのは一つ大きな革新である、と言われたりもします。
確かにそのような手法で成功した事例もあるでしょうが、多くの場合、小さな工夫・ハックの積み重ねが競合相手に勝ることにつながります。
塵も積もれば山です。毎日確実にユーザー数の獲得を増やしていき、収益を向上させていくことができれば、一年過ぎたところで振り返ったとき、大きなブレイクスルーがなかったとしても、プロダクトが驚く程成長したことに気付くでしょう。
Pando Dailyの取材に応えたBryan Goldbergは以下のように述べています。
VCに売り込みを行うとき、いつも投げかけられる質問は「Bleacher Reportはいつを契機に爆発的に認知度を得たのか?」である。その答えは、そのような時期は一度もない、ということだ。今日までBleacher Reportはアメリカ合衆国内で、規模においてトップ50サイトの内の一つであるという地位を誇っているが、何より素晴らしいのは今日までの道のである。我々は一度もユーザー数が急速的に伸びた時期はなく、ただ着実に地道にユーザー数を増やしてきただけなのだ。
本連載の目次:
まとめ
・ グロースハッカーになるためにはプログラマーである必要はない。
・ マーケターも焦点をグロースに絞り、持ち合わせているスキルを掘り下げていきさえすれば、グロースハッカーになれる。
・ ほとんどのグロースハッカーは倫理的である。
・ グロースハッカーは様々な領域において専門的知識を備えているが、仕事を効率的に行うためにはその内いずれかの領域で他人よりも秀でている必要がある。
・ データ分析を非常に重要視するが、それと同時にグロースハッカーは好奇心が旺盛で独創性に溢れ、時に定性的な調査を好む、右脳型の人間である。
・ グロースハッカーはグロースに取り憑かれており、これが成功する手法を発見するまで努力を続け、プロダクトの成長を前進させるような小さな成功の積み重ねを可能にする。