GHJインタビュアー(以下、GHJ):本日はよろしくお願いします。早速ですが、まずはfreee 社の事業と提供するサービスについて教えてください。
轡田 哲郎氏(以下、轡田):スモールビジネスに関わる方々がクリエイティブな仕事にフォーカスできるようにするということをミッションとして、主にバックオフィス業務のクラウドサービスを提供しており、「クラウド会計ソフト freee」、「クラウド給与計算ソフト freee」、「会社設立 freee」の3つのサービスがあります。他にもオウンドメディアなどいくつかのサイトを保有しています。
※参考:会計ソフト freee
鈴木 幸尚氏(以下、鈴木):加えて、10月から始まるマイナンバーに関するサービスも現在立ちあげているところです。
GHJ:複数サービスがあるんですね。その中でみなさんはどのようなお仕事をされているのですか?
グロースハックを専門で行うスペシャリストチーム
・左からエンジニア轡田氏、エンジニア大平氏、マーケティング鈴木氏
轡田:freee はセールス、マーケティング、開発、サポート、UX…などのいくつかのチームで運営していて、私たちはその中でグロースハックに特化したグロースチームに所属しています。
GHJ:グロースハックに特化したチームですか。みなさんの職種とチームにおける役割を教えて頂けますか?
轡田:エンジニアでグロースチームのリーダーをしています。もちろんエンジニアリングもやるのですが、企画・プランニングから、作って、リリースしたものを分析して…というところまでやっています。
大平 武志氏(以下、大平):エンジニアの大平です。基本的には企画から実装、あとは分析できるようにデータの出しわけなどをメインで担当しています。
鈴木:マーケ側のグロースを担当している鈴木です。もともとマーケティング担当としてAdWords運用などをやっていたので、そういった知見を活かしたグロースをメインでやっています。エンジニアリングはやりませんが、その前段階の企画や、オンラインマーケティングの実装はやることもあります。
轡田:この3名に加えてもう一人、山田というデザイナーもいれた4名でグロースチームです。あとはチーム外でデータマイニングアナリストがいて、施策に必要なレポート出したりしてくれています。
GHJ:自己紹介ありがとうございます。それでは早速グロースチームについて色々聞かせて頂きたいと思います。
GHJ:グロースチームでは主にどのサービスや領域を担当しているのですか?
轡田:グロースチームは、先にお話した「会計freee」、「給与計算freee」、「会社設立freee」の3つのサービスすべてを見ています。お客様とのコミュニケーションや、LPの改善施策まで何でもやります。継続して利用してもらうためにどういう要素が必要か、そのために何をすべきか考えて、実装まで行なっています。
GHJ:特定サービスにフォーカスするのではなく、3つのサービスに横断的に関わっているんですね。
「エジソン」とにかくアウトプットし続け、成果に繋げるチームカルチャー
GHJ:グロースハックを担当する専門のチームがあるというのは珍しいと思うのですが、チームのミッションとして掲げているものはなんでしょうか。
轡田:チームミッションは、ユーザーにサービスを継続して利用してもらうために、価値を提供し続けることです。それを表すキーワードとして「エジソン」というものがあります。エジソンは大発明もしていますが、その発明に至る過程で数多くの失敗もしているのは有名ですよね。彼は失敗を失敗と思っていなくて、「うまくいかなかったことを発明した」と言っているんです。
グロースの中でもうまくいかないこともありますが、たくさんの施策をうって、学習しながら、やれることはスピード感をもってどんどんやっていく。そこから学習したことを活かしてさらに施策をうって、成果につなげていく。とにかくアウトプットしていくチームでありたいという思いから、それを言い表すキャッチーフレーズとして、「エジソン」を掲げています。
GHJ:面白いですね。このフレーズはどうやって決まったんですか?
轡田:チーム作りをするときに、メンバーで半日会議室にこもって、互いを知るために個人的な話もしたりしながら議論しました。そのなかでスピード感や、失敗から学んで改善していく、そういったチームであることを大事にしたいという声が多く出て、そこで鈴木が「それならエジソンですね」と。彼はマーケティングの天才なので、キャッチコピー考えるの得意なんです(笑)。
鈴木:「エジソン」一択でしたね。
GHJ:そうなんですね、さすがです(笑)。
状況に応じてチーム体制を変えていく柔軟性
GHJ:グロースチームが発足するに至った経緯や、今のメンバー構成の理由などについてお聞きしてもいいでしょうか。
轡田:1 年ちょっと前くらいからグロース専門のチームとしてやっています。もともと数字をみてどれくらいのユーザーが継続利用しているのか、有料ユーザーになっているのかなどを追えていなかったので、そこを追っていくチームを作って仕組みを整えていった方がいいということで立ちあげられました。
最初はセールス担当なども含めた5,6名のチームだったのですが、ちょっとずつ変わってきました。メンバー編成にエンジニア以外のマーケやデザイナーも入ってるのは、作るだけでなくデザイン・マーケティングの部分からもサービスを全体最適していく、というところもありますし、このチームだったら何でも出来る、ということもあります。デザイン、UI/UX、開発、それを広めていく、というところまで一貫してできるチーム編成ですね。
GHJ:チームメンバーや構成が変わっていったきっかけは何だったのですか?
轡田:これといったきっかけというよりは、必要なときに必要なメンバーでやれるようにしていった結果ですね。必要なときに、適宜巻き込んでいく、というかたちでプロジェクト毎にメンバーをアサインしたりもします。
GHJ:そうなんですね。皆さんはグロースチーム専任なんですか?それとも他の業務も行なっているのですか?
轡田:私と大平はグロース専任でやっています。 鈴木と山田は他チームと兼任してますね。
GHJ:チームを兼任するのってバランス保つのとか難しそうですね。マーケチームとグロースチームでの住み分けってどのように線引しているのでしょうか。
轡田:サービスプロダクト内をメインで考えるのがグロースチーム。プロダクト外を担当するのがマーケチームという分け方ですね。ただ、マーケは、プロダクト内にももちろん絡んでくるので、はっきりとした線引きはしてないですね。
GHJ:なるほど、ありがとうございます。
月間30本の施策をまわす高速PDCAとは
GHJ:さて、チームミッションやチーム運営の変遷について聞いてきましたが、実際の業務の進め方について教えて頂けますか?
轡田:毎月1回、施策の案出し会議をします。ブレストみたいな感じで。そのなかでフォーカスしていくエリアを決めて、プロジェクトごとにリーダー(プロジェクトオーナー)を決めて、そのオーナーが施策の優先順位を決めて、進めています。
GHJ:そうなんですね。施策の案だしはどのように行なっているのですか?
轡田:他サービス事例をヒントとすることもありますが、本質は「課題解決」ですね。データをみたり、アンケートをみたり、サポートへの問い合わせ内容をみたり、ユーザーテストを実施したりしてユーザーの抱えている課題を把握して、そこからソリューション(施策)を考えています。
BtoBの会計ソフトって、選ぶときに皆吟味するからハードルが高いんです。だから単にクリック率とかを考えるだけでなく、何が課題で、どうやったらそれを解決できるのかを見つけ出すのがとても大事なんですよね。
GHJ:なるほど。月にどのくらいの施策を行なっているのですか?
轡田:細かいA/Bテストなども含めると月30本くらいの施策を行なっています。
GHJ:30本もですか!すごいですね。では常にいくつもの施策を動かしているのですか?
轡田:エンジニアが2人なので同時に動かしているのは2つくらいですね。
GHJ:並行して施策を行うと2つのKPIがバッティングしてしまうこととかないんですか?
轡田:施策の順番はかなり気をつけてますね。優先順位付けをする段階で同時に比較できないものは外すようにしています。
GHJ:優先順位付けはどうやっているのですか?
轡田:インパクトの大きいそうなところからですね。週次で施策対象を切り替えたりしてます。
GHJ:KPIとしては何を見ているのでしょうか。
轡田:KPIとしてはユーザー数と継続率が大きな2つですね。当社サービスの場合は、ユーザーも法人の方と個人事業主の方ではニーズが違うのでそこでも分けています。その他にも
データ入力率とかそういったところも見ています。
GHJ:施策をみる期間はどのくらいなんですか?
轡田:長くても1週間くらいですね。短いものだと2日くらい。統計的な有意さを求めるとサンプル数は多い方がいいのはもちろんなんですが、それだと短期間で改善できないので、(サンプル数の多さによる)厳密さよりもスピード感を重視していて、6割でもいいから出そうということを大事にしています。
裁量権の大きさがスピードに、そして成果に繋がる
GHJ:とにかくスピード感をもって取り組むと。施策の進捗管理はどのように行なっているのですか?
轡田: 少人数のチームということもあってフレキシブルにやってます。Googleのスプレッドシートにバーっと施策を出して、優先順位やリリース日などをメモしてやっています。細かい進捗確認は毎日の朝会で確認していますね。実際に作るもので言うと半日から1日でやるものが多いですね。
GHJ:施策を行う決定権はチームにあるんですか?なかには会社の承認が必要なものもあるかと思いますが。
轡田:はい、チームに権限があるので、会社の承認がなくてもどんどん進められます。これくらいしないと普通じゃないスピードで改善していくのは無理ですね(笑)。
鈴木:最初はお伺いを立てていたのですが、それじゃ全然進まなくてダメだと。それこそチームができたばかりの時はサインアップフローの変更に数ヶ月もかかって。面白いのは、綿密に考えた案だったとしても結果が必ずしも良くなるとは限らないということですね。逆に、ラフにやった方が結果が良かったです。このままじゃダメだから、とにかく小さい施策でもいいからスピードもって繰り替えて改善していこう、となっていった感じです。
柔軟なチーム体制による他部署との関わり
GHJ:先ほどグロースチームとマーケチームの住み分けの話がありましたが、実行する施策がチーム外からくることはあるんですか?
轡田:それはありますね。サポートチームから「最近こういう問い合わせ多いんだけど…」とか、セールスチームから「こういう数字が欲しいんだけど」とか。
GHJ:そういう場合どう対応しているのですか? 既に進めている施策との兼ね合いもあると思いますが。
轡田:費用対効果を考えてグロースチームで優先順位を付けて対応します。もともとスケジュールをガチガチに固定していないので、インパクトが大きそうなものが突然入ってきたらそっちを優先して対応することもありますし。そこらへんはかなり柔軟に対応していると思います。
失敗をどう次に活かすのか。諦めないことが成功につながる。
GHJ:なるほど、ありがとうございます。施策について事例を教えて頂けますか?失敗したもの、上手くいったものの両方教えて頂けると。
鈴木:先ほどの数ヶ月に及ぶサインアップフロー変更プロジェクトが1つ。あとは2年間ずっと変わらなかった初期登録画面でのA/Bテストですかね。全然違う20画面くらい試しましたね。やっていく上でいろんな知見が貯まり、改善するまで諦めずにやり続けてようやく改善できました。
上手くいかなかった事例で共通していたことでいうと、「なんかダサいから変えよう」みたいな感じでコンセプトがふわふわしている場合でしょうか。こういうケースはダメだった時も何かダメだったかの学びが少ないですね。逆にコンセプトが明確な場合は、仮に失敗しても次に活かせることが多いです。
轡田:うまくいった事例でいうと、サインアップフローの改善でしょうか。「自動で経理」という機能があり当初はそれを推していたのですが、サービスが成長するにつれて、またユーザーが増えるにつれて、それ以外の機能も充実してきたので、思い切ってその機能を推しすぎないようにしたら離脱率が下がったり、いろんな数字が改善しました。
GHJ:なるほど、強みとして推しだしていたところを思い切って変えるって勇気が要りますね。
※GHJ注)
その他にも色々なグロース事例について話してくれました。それらの事例については別サイトの「継続的なグロースハック「クラウド会計ソフトfreee」のユーザビリティ改善事例 | freee 株式会社」で紹介しております。
最後に
GHJ:色々お話頂きありがとうございます。最後に改めて、freee のグロースチームが大切にしていること、読者の皆さんに伝えたいことについて教えて下さい。
轡田:そうですね…グロースハックを行なっていく上で、というかグロースハックに限ったことでは無いと思いますが、「ユーザーにとってマジで価値あるか」をとことん突き詰めることが大切だと思います。グロースハックというのは本質的にはユーザーの課題解決だと思うので。あとはエジソンのようにあきらめない心と好奇心旺盛であることと。これらをもってやり続ければ伸びていくんじゃないかなと思います。
まとめ
今回はfreee 社のグロースチームに、グロースハックの考え方やチーム発足の経緯、チーム運営の仕方についてインタビューさせて頂きました。インタビューのなかでいくつも事例が出てきたりと(残念ながらここではご紹介できないものもけっこうありました。)、本当に裁量権とスピード感をもって施策を行なっていることに驚かされました。チーム作りやプロジェクトの進め方など、読者のみなさんがグロースハックを行なっていく上でヒントになるものがあるのではないでしょうか。