今、SaaS(Software as a Service)業界が熱い。

クラウドサービスの比較サイト「ボクシル」を運営しているスマートキャンプが公開されているSaaS業界レポート2018によると、海外SaaS市場規模は2014年の290億ドルから2020年までに約890億ドル(10兆円弱)の市場へと拡大する見通しであり、国内市場も2016年実績の約3,000億円から2021年には約5,800億円へと拡大する見通しです。米国のVCはSaaS領域に年間約300億ドルを投資しているとのレポートもあり、これは全体の約40%を占めているとされています。

そうした背景の中、私もまた、SaaSについての正しい理解と知見をつけるために、半年ほど前からマーケティングに使えるSaaS(主にはマーケティングオートメーション領域)のリセールから運用代行まで担うビジネスを立ち上げています。

今回はその実践知をもとに、第三者的にみたSaaSにまつわる気付きについて、少し共有できればと思います。なお、ここで対象となるSaaSはあくまでマーケティング用途のものに限定する考え方とし、すなわち組織用途(例:ERP・人事・会計・チャット・他)のものは除いて考えます。

SaaSのアドバイザー需要は非常に高い

これは、何社かヒアリングし始めてすぐに分かったことですが、SaaSに対する第三者的見解を求めている企業は多いです。私も前職はtoCサービスを運営する側の人間で、マーケティングツールを導入する立場だったので分かるのですが、日々の運営・運用にリソースの大半が割かれている中で、ツールの比較選定に割けられる時間は限られています。

だからこそ、コンサルティング会社やマーケティング専門会社が成立しているわけですが、我々は事業に対する理解は劣る反面、市場の理解においてはプロフェッショナルです。海外含めて、テクノロジーやソリューションなど盤石なマーケティングの武器庫を保有している上で、日々新たな情報を仕入れては武器の出し入れを行い、その鮮度も保っています。

SaaS企業は営業スキルが非常に高度です。Salesforceで「The Model」という営業のベストプラクティスがあるように、各社リード獲得から商談、受注までの分業体制やマニュアルがしっかりされているため、非常にメリット満載の魅力的な営業を受けることになります。

私はそんな営業を、年がら年中浴びています。それは第三者的立場で仕事している人間の責務です。
その場ではふむふむ、と聞くのですが、「他社製品には無い強みです」と言われても、後から調べると他でも出来るものだと分かったりもしますし、やはりデモ画面と実際に使ってみた後では、どうしてもギャップを感じる部分は出てきます。これは、どのツールも大体そうです。

こうした全方位的な情報を、SaaS導入検討企業も求めています。SaaSによる直接営業を否定するつもりはありません。ただ彼らもまた、競合製品の使用感含めた細かい善し悪しの情報を常時アップデートし続けることは難しい環境や立場にあるケースが多いのと、そもそも他社製品が優れている点を提示するメリットが無いため、やはり情報としては限定的となります。

SaaSのランニングコストは見誤りがち

導入検討にあたって意外と盲点なのが、SaaSのランニングコストです。コストをライセンス利用料だけで考えると痛い目に合います。SaaSはライセンス購入さえすれば課題を解消してくれるような魔法じみたものではありません。

当然、それを活用し、PDCAを回していくのは人の仕事です。優れたSaaSであるほど、得てしてそれは多機能であり、使いこなすにはそれなりのスキルと人月を要します。
中で体制を作るにしても、その人件費分のコストはかかるわけであり、それを含めてトータルのSaaSのランニングコストとして考え、導入の意思決定をするべきです。

またこの人件費は、ライセンス利用料の大小に限らず、ある程度一定だということも忘れてはなりません。多くのマーケティング系SaaSはデータポイント数かユーザー数によって料金テーブルが定められており、当然利用者の多いサービスであるほどライセンス料はかかります。
しかし運用に係る工数は、小規模なサービスであっても大規模なサービスであってもやることは基本的に変わらないため、一定の人手が必要になります。

内製で運用しようとすると中々このコストインパクトに気付きにくく、私が運用代行の見積を出すときに初めてそれを目の当たりにした時に驚かれる方も少なくはありません。しかし、事実としてそれぐらいの工数がかかる業務でもあり、恐らく内製で体制を作る方がP/L上は高くつくでしょう。特に安価なライセンス契約であればあるほど人件費の方が何倍も高くなるため、小規模な事業体に対しては安易にマーケティング関連のSaaS導入はオススメしていません。むしろ、コストを回収できているところがあれば教えてほしいぐらいです。

運用のAI化が今後の鍵となる

そう、マーケティング用途のSaaSはライセンス費よりも何より(それもSaaSによっては高いのですが)、それを操る人件費の方が現状高くついてしまうのです。そこまでをSaaSのランニングコストと考えると、人の工数の削減を可能にすることこそが価格競争のブレイクスルーとなり得ます。

広告業界に例えるならば、GoogleのUAC(ユニバーサルアプリキャンペーン)です。「予算」「目標CPI」「テキストクリエーティブ」だけ設定しておけば、自動的に広告を最適に配信してくれる仕組みです。まだまだ仕組み自体の改善余地はあるかもしれませんが、これは画期的な発明です。

2018年11月にモバイルアプリマーケティングツール「Repro」がマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」とAIを活用した実証実験のリリースを出していましたが、まさにそういうことなのです。今後クリエイティブ、ターゲットセグメンテーション、配信タイミング、それらの管理画面設定などあらゆる側面がAI化され、従来工数がかかっていたところを削減できるようになれば、ランニングコストを大幅に抑えられ、企業としても導入の意思決定が行いやすくなるでしょう。

結果として私たちも運用作業の時間を削減し、より付加価値の高い業務に時間を費やすことが可能となります。我々マーケティング人材にとってPDCAの運用力というのは本来価値の本質ではありません。事業を成功へと誘うことにこそが価値であり、そういう意味でもSaaSに限らず、テクノロジーの進化については今後も期待していきたいと思います。

高木 僚平

2010年に株式会社サイバーエージェントに新卒入社。ソーシャルゲームのデータ分析組織立ち上げをキッカケに、アプリのプロダクトマーケティングを専門とし、自社事業メディアのグロースハックを手掛けた。子会社の社長や、AbemaTVの事業設計にも携わる。

2016年より電通デジタルに参画。同社でグロースハックプロジェクトを立ち上げ、モバイルアプリを中心とした事業戦略やKPI設計のコンサルティングでクライアント企業の事業成長支援に従事。