2019年2月20日、東京・恵比寿でOutbrain、amana、ALPHABOAT、indaHash、Teadsの5社による共催セミナーが開催されました。セミナーテーマは、『ユーザーが「自分ゴト化する」共感型コミュニケーション』。
第3部のテーマは、ライオンの事例に学ぶ「ワン・パーパス」×「マルチ・クリエイティブ」。従来型の一方通行なコミュニケーションではお客にブランドメッセージが届きにくいソーシャル時代に、タッグを組んだ「クリニカ」とAlphaBoatが、さまざまなインフルエンサーを活用して、マルチ・クリエイティブの動画広告を制作した背景についてのトークが展開されました。

自社の「ブランド・パーパス」を考えるところからスタート

トーク序盤、西谷氏が切り出したテーマは「ブランド・パーパス」。これは、「ブランド理念」「ブランドの大義」「ブランドがサスティナブルに存在する理由」などと解釈される言葉ですが、今回の議題となっているライオンの事例においては、動画制作の前段階に、ブランド内で「ブランド・パーパス」に関する議論が長時間続いたといいます。

その理由を説明したのは横手氏。「機能的にも優れた商品がこれだけ溢れている日本では、日常生活の中で改めて、何が良くて何が悪いかを考える時間はないですよね。そんな中で我々マーケッターが何のために存在しているかというと、ブランドを使う価値体験を高めるため。そこで、『ブランド・パーパス』という考え方をまずは自分たちが取り入れることにしたんです」と明かします。

「クリニカに関していうと、これまでは、『日本を予防歯科の先進国にする』というスローガンをもとに展開していましたが、これはあくまでもライオン、クリニカが主語。しかしこれからは社会やお客さまこそ主体と考えたとき、『わたしたちは社会や顧客と共にどんな価値を生み出していくべきか?』『わたしたちは何のために活動するのか?』という問いにぶち当たりました」。

横手 弘宣氏
(ライオン株式会社)
その背景にあるのは、「価値の多様化」「選択の自由=自己責任」「正解がわかりづらい社会」といった、今の時代ならではの要素。こうした時代背景をもとに多くの生活者たちは将来に不安を抱えており、忙しい毎日の中、自己投資に対して前向きでありつつも、思うように行動できていないことに罪悪感を抱くこともしばしばあります。

これをクリニカという商品に当てはめて考えると、「歯医者さんにほめられる歯に」をコピーとして掲げることにより、「医者から褒められたら満足=罪悪感がぬぐわれる」ということになります。つまり、その一瞬をいかに切り取るかが、ブランドにとって大切なことだというのです。

「人は『誰かに褒められたい』欲求があるものですし、何かを達成したら次もがんばろうと前向きになれます。そのサイクルをつなげられたら、社会に対して新しいメッセージを発信できると考えました」と横手氏は説明する。

「歯磨きして褒められることはなかなかありませんが、きちんと磨いて虫歯を予防していることで、“わたしはちゃんとがんばっている”と自分を認められると、歯も健康になるし、日々の歯磨きにも前向きに取り組めると思うんです」と、さらに続けました。

ブランド・パーパスと消費者のニーズとの接点を考えてコピーやストーリーを制作

これを受けてAlphaBoatは、顧客に直接ヒアリングして、日常でどんな風景を見ているのか、インサイトをあぶりだしてコンテンツの制作に入ることに決定。結果、「大人になるにつれて褒める機会が増える一方、褒められる機会が減る」というユーザーインサイトを抽出しました。そうしたインサイトに基づくクリエイティブコピーの開発を実施し、その結果、「#大人は大変だ。」「#大人だって、ほめられたい。」のコピーが生まれたのです。

「大事なのは共感していただくことなので、メーカーからの押し付けにはしたくないと思っていたんです。生活者が心の中で思っている言葉を表したこの言葉はひとつの答えですし、歯磨きをしている時間にはその日一日のことを思い出すこともあるから、“1日を振り返る歯磨き”を作れることに親和性を感じました」と福井氏もうなずきます。

福井 幸二氏
(ライオン株式会社)
続いて横井氏が、今回のコンセプトやターゲットなどについて説明。まずコンセプトは、「37年間にわたって洗面台から家庭を見守ってきたクリニカが、洗面台の鏡の視点から、仕事や子育てに奮闘する大人を励ます」。ターゲットは、日常生活をがんばっている大人たちで、特に30代以上の女性。ストーリーをうまく説明することで、それを「自分ごと化」してもらいたいと考えたといいます。

そこで、一人ひとりが自分を深く投影できるターゲットを見つけてより深く共感できるよう、ペルソナに応じて3パターンの広告を制作。3つはそれぞれ、「ポストイット編」「よくできました編」「鏡絵日記編」で、お客が主語になって、「褒められる瞬間」を反芻できるような内容に仕上げました。ポイントは、ムービーの主語が「がんばる大人」であって、ブランドではないことです。

これに対してAlphaBoatがおこなったのは、共感を得るためのインフルエンサー施策。ドラマ出演をストーリー化して、人柄や雰囲気を重視したインフルエンサーのキャスティングを実施し、今回のドラマ出演という出来事自体をひとつのストーリーとして展開。さらに、ドラマのテーマやメッセージに共感するインフルエンサーに、同じ熱量を持った仲間を探してつながってもらうことで、コミュニティを形成してもらい、ムービーの熱量を拡散してもらいました。

西谷 大蔵氏
(AlphaBoat合同会社)
また、音楽もフルスクラッチ。フォロワー数などの量的基準、エンゲージメント率などの質的基準を超越して熱量を伝えることに重点を置いたインフルエンサー施策を実行しました。

動画を埋め込んだ記事を作成することによってさらに拡散

コンテンツ拡散のためにさらにさまざまな施策をおこなったのはアウトブレインです。2分半にもおよぶ動画の内容を、パケット代を気にする若年層にも知ってもらうため、動画を埋め込んだ記事の作成を実施。エキサイトニュース、マイナビに、それぞれ違う角度からコンテンツを切り取って紹介してもらうことを決定しました。

さらに、記事内での動画の視聴完了率、滞在率、クリニカのwebサイトへの遷移率もはかり、ちゃんと共感を呼べたかという観点から、コンテンツの拡散というKPIとして精査しました。

「膨大な組み合わせの中から動画の視聴完了率やブランドサイト遷移などのエンゲージ指標に基づいて、動画再生コンテンツへの送客をコントロールしています。リーチや送客数の最大化ではなく、エンゲージの最大化ですね」と秋元氏。

記事を読むと自動的に動画が再生されますが、動画視聴完了率は20%前後で、2分半の動画にしては高い数字を出すことに成功しました。

秋元 陸氏
(アウトブレインジャパン株式会社)
また、次回のステップに関して福井氏は、「この施策でもっとも大切なのはクリニカのパーパスや思いが伝わることなので、ちゃんと伝わっているか、伝わっていないとしたらどこか、共感ポイントはどこかを考えながら次のコンテンツ作りにつなげたい」とコメント。

これを受けて西谷氏は、「ソーシャルエンターテインメントをプロデュースする上では、社会全体へのアンチテーゼを考えるアプローチが重要。これはブランド・パーパスと密接に連携していますが、特にミレニアル世代を考える上では不可欠なこと。これからは、フォロワー数やリーチ数より、生き方や姿勢、発信しているメッセージへの共感や賛同が大事になってくると思う」と締めくくりました。