動画広告は現在、まさに過渡期にある。これまでは「接触・認知」から「購入」へ至るマーケティングファネルのうち、最上部と最下部に力点が置かれ、両者の間を埋めるべきものにはそれほど注意が払われてこなかった。いかにして、ブランドに対して興味を持ってもらい、好感と信頼を得てもらうか。実はその中間プロセスにこそ、動画広告が果たすべき役割と意義がある。ビューアブルでブランドセーフな広告プラットフォームを提供するTeads。「良質な媒体社様と戦略的にパートナー関係を結び、ユーザー体験に細心の注意を払う。質の高い広告には、おのずと効果がついてくる」と語るTeads Japan株式会社の今村幸彦氏にお話をうかがった。

日本の動画広告戦略と施策に新しい価値を提供

–成長を続ける動画広告市場ですが、現在のトレンドとしてどのようなことを感じますか。

 2017年、インターネット広告に対する課題が浮上し、特に、アドフラウド、ブランドセーフティー、ビューアビリティーなど、広告全体の質が問われるようになりました。
 これまでは、配信の質やユーザー体験の質、隣接するコンテンツの質などはあまり注目されず、 CPMとCPCの二軸で日本のデジタルマーケティングは成長を続けてきました。しかし、マーケティングファネル全体を見てみると、ミッドファネルにおける指標がほとんど確立されてこなかった。つまり、これまでの動画広告は「接触・認知」と「購買」だけが注目され、「興味・関心・理解」と「購入検討」というプロセスへの指標の評価が重要視されてこなかったんです。KPIのほとんどがユーザーの広告体験の質や、視認性をほとんど考慮しない、再生開始単価・再生完了単価でした。しかしそれでは、「顧客を創造する」という観点からの施策がまったく取られていないことになります。当然、将来的に有望な顧客を育てることもできませんし、購買意欲を想起させることもできません。

–そこでマーケティングファネルにおいて、御社はミッドファネルにターゲットされているのですね。

 もちろん、ユーザーへのリーチや認知リフトというところにも貢献していますし、質の高い広告体験で購買意欲の想起にも貢献していますので、実際には「接触・認知」から「購入」まで、あらゆるファネルで働きかけを行っています。
 そうした中で、現在、当社が注目しているのは、広告への接触時間、つまり、ユーザーが広告に接触する時間をどれだけ長くできるかということです。現在、日本におけるインターネット広告市場は1兆5,000億円ですが、そのうち、動画広告が占めるのは1,900億円。劇的に成長したとはいえ、全体の約12〜13%でしかありません。まだ伸びしろがあるのです。
 動画広告の中では、FacebookやYouTubeの広告が大きな割合を占めますが、Facebookについていえば、平均わずか1.7秒で90%の人が広告から離脱してしまっており、広告との接触時間があまりにも短いことが課題とされています。一方、YouTubeでは一定時間必ず広告が表示されることによって、接触時間を確保することはできていますが、ユーザーの広告体験の質という観点からは好ましいとはいえません。また、不適切なコンテンツに広告が表示されてしまうかもしれないというブランドセーフの問題もあります。
 そこで当社では、ブランドセーフやビューアビリティなどの課題をクリアし、ネット広告の健全性を高めた上で、いかにして広告に対するユーザーの接触時間を長くするかということをテーマに設定。質の良い広告体験を提供し、好意的な認知を得ることでブランドに貢献したいと考えています。

–御社は創業当初より、「ユーザーファースト」という言葉を掲げています。

 「ユーザーファースト」とは、換言すれば、「質の高い広告体験」ということ。簡単にいえば、「ユーザーに嫌われない広告」ということです。とかく最近は、面倒な広告フォーマットが非常に多く、わざと閉じる”×(バツ)”ボタンをクリックしづらくしたり、そもそもこういったボタンを設置していなかったりする広告も少なくありません。また、無理やり広告を表示することで、視認性を高めようとする広告もあります。これでは本末転倒で、ユーザーはブランドを嫌がり、メディアから離れ、アドブロッカーを設定して、広告全体を遮断してしまうことになりかねません。日本では、アドブロックのユーザー数は10%程度ですが、欧米では4人にひとりがアドブロックを採用しています。これでは、オンライン広告の将来をとざすことになり、ユーザーへの広告機会を喪失してしまいます。

–そこで、御社は「ユーザーファースト」を唱えているのですね。

 当社の広告は記事と記事の間に挿入されますが、興味がなければ飛ばすこともできます。また、画面に広告が表示されて初めて再生が始まるため、確実にビューアビリティが保証されます。さらに、配信前に本当に人間が見ているのか確認しているため、アドフラウドの問題もクリアしています。
 当社は創業時から「ユーザーファースト」「ビューアビリティ」「アドフラウド」を課題にしていましたが、最初はそうしたことに対する認知が低く、実際に取り組もうというブランドはあまり多くありませんでした。近年ではグローバルブランドを中心に、課題として認識してきた感があり、大手ナショナルブランドの中にも、それに沿った形で広告をプランニングするところが出てきました。これは、適切な広告費が正しく投下されているのか、きちんと確認する物差しができてきたということ。ようやく、デジタル広告の“ダークサイド”に審判の光が当たり、正しく判定されるようになったということではないでしょうか。

–御社では270以上のプレミアム媒体とパートナーシップを組み、月間8.5億インプレッション規模のネットワークを構築していると聞きました。

「消費者にとって良質な広告体験」には、「品質の高い配信面」と「嫌われない、記憶に残る広告表現」の二つが必要です。実際、当社のオンライン広告は接触時間が長く、平均約12秒。しかし、デジタル広告に異論を唱え、デジタル広告費を大幅削減したことで知られるP&Gの調査によれば、オンライン広告の平均接触時間はわずか1.7秒だったということです。それと比較すると、当社の「12秒」という数字が驚異的であることがお分かりでしょう。
 この「12秒」という数字の背景には、当社の広告にはエンゲージ要素がふんだんに仕掛けられ、ユーザーの興味を喚起し、飽きさせないという工夫があります。国内の大手グローバルブランドの広告で検証を行ったところ、「対話性のあるインタラクティブ広告は通常の広告に比べて4倍の認知効果がある」ということがわかりました。つまり、本当に質が高く、ユーザーに好まれる広告は、ブランドにとっても大きな価値を生むということ。それを測るための指標のひとつが、「広告接触時間の長さ」なのです。

クリックや動画視聴率では見えてこない、動画広告の真の価値を

–「2018年11月、ハースト婦人画報社に制作ツールを開放」というニュースがありました。

 当社はクリエイティブ広告の制作支援も行っており、そのためのツールのひとつがTeads Studioです。Teads Studioとは、Teads が独自の技術をもとに開発した、リッチでインパクトの高いインタラクティブなクリエイティブを簡単に制作することができる広告クリエイティブ制作ツールのこと。このツールを2018年11月より、国内で初めてハースト婦人画報社様へご提供することになりました。これにより、最先端のクリエイティブ表現を活用した同社の広告商品開発を支援し、同社が保有するメディアの収益拡大に貢献します。
 これまでも、ハースト婦人画報社様は、インリードフォーマットの専売パートナーとしてTeadsを起用され、広告収益における主要プラットフォームとしてご活用いただいていました。こうした協業関係をさらに強化し、戦略的に発展させることを目的に今回、プラットフォームを開放。同社の広告商品開発を支援させていただくことになりました。現在もさまざまな企業様からTeads Studioに関するお問い合わせをいただいていますので、こうした広告商品開発支援はますます加速していく見込みです。

–今後、御社の目指すプロダクトの方向性については、どのようにお考えですか。

 現在、当社で進行中のプロダクトとして、「self-assembled ads」、つまり、「自動生成広告」があります。これは、基本の絵コンテは同じでも、リーチしているユーザーの属性や特徴によって、見せる内容を変えていく広告のこと。その人がどんな人か、どんな記事を見ているときに広告が表示されたのか、どんなシチュエーションで広告に接触しているのかなど、さまざまな点を考慮して、広告のクリエイティブをダイナミックに変化させます。まだ実験段階ですが、今後はエージェンシーと協業しながらさらに展開を進めていきたいと考えています。

–最後に、変化の激しいデジタル広告の業界で、今後、必要とされる人材についてはどのようにお考えですか。

 広告は、現実世界の中でユーザーが触れるものです。そのため、実世界に照らし合わせ、きちんと広告手段を考えることができる人材が必要とされるのではないでしょうか。たとえば、自分自身がある会社の広告を好ましいと思っていないのに、その広告をクライアントへ積極的に提案するなど、そうした行為は信頼を損ねます。当然のことですが、自分が日頃感じていることとクライアントへの広告提案があまりにも乖離していれば、ブランドセーフやアドフラウドを招くリスクは高まります。
 また、開放型のネットワークは危険性を伴っているということも、もっと意識する必要があると思います。それに対して、実践的な対策を取っているメディアやネットワークを選択することも必要ですし、単にエクセルの計算だけに依存してメディアバイイングを行わないことも大切。確かに広告コストは大事な指標ですが、その単価の前提となっている、形となって現れていない数字も把握しなければなりません。クリックや視聴完了率では見えてこない、動画広告の本質へ目を向けなければ、広告の真の価値を見定めることはできないのです。
 さらに、その広告がどういう形でユーザーへ配信されるのか。本当にビューアブルなのか、無理やり見せているのか、そうしたことも考慮にいれなければなりません。
 メディアプランニングを考える上で、考慮すべき事項はますます増えてくるでしょう。しかしこうしたことをすべて代理店任せにせず、今後、ブランドサイドも意識を高く持つ必要があるだろうと考えています。広告本来の目的に立ち返り、一体なんのために広告費を投下しているのか、そこに目を向け、広告の本質を見定める指標を確立する必要があるのではないでしょうか。

今村 幸彦氏
Teads Japan株式会社
Managing Director

1992年ソニー(株)入社。半導体・テクノロジー事業、フォーマットライセンスのビジネスに従事。シンガポールにて同社の事業拡大に参与し、帰国後Sony Computer Entertainmentにて、プレイステーションポータブル等事業の立ち上げに参画。2006年(株)電通入社。デジタル事業、海外ビジネス提携事業を旗揚げするなど要職を歴任。2014年Kenshoo, Ltd.(本社:イスラエル)入社。同社のアジア太平洋地域責任者としてAPACの事業戦略をリード。2016年8月、ビューアブル広告市場を世界的にリードするTeads.tvの日本法人Teads Japan(株)のマネージングダイレクターに就任。Teads Japanの日本市場における事業全般を統括。