需要の無いプロダクトづくりに多大な時間とコストをかけてませんか?

大きなビジョンを描いても、ローンチ後に綿密なグロースハック施策を行なっても、ユーザーが必要としないサービスを売っては机上の空論に過ぎません。そんな誤ちを避けるために、まずは「MVP」の製作を強く推奨します

*TOP画像はツイッター構想時に実際に書かれたスケッチです。

MVPとは

本記事で扱うMVPは、野球やサッカーで活躍した選手に送られるMVP(=Most Valuable Player)とは全く関係ございません。

スタートアップやプロダクト開発の際に使われるMVPは「Minimum Viable Product」の略であり、日本語にすると「必要最低限の能力を兼ね備えたプロダクト」という意味にあたります。

リソースの限られたスタートアップは、本格的な開発をスタートする前に「必要最低限の能力を兼ね備えたプロダクト」を作ることで、以下のような利益を得ることが出来るのです。

①顧客の真のニーズを知る

ローンチ前にサービスや商品が絶対に売れる保証などどこにもありませんが、ターゲットの真の需要をローンチ前に理解することで「確実性」は一定まで高めることが出来ます。

確実性を高めるための最大の手段こそMVP、即ち、必要最低限の能力を兼ね備えたプロダクトを作り、ターゲットにMVPを実際に体験してもらった上でフィードバックを得ることなのです。

②ピヴォットしやすくなる

「ピヴォット」とは、仮説構築及び検証結果に基いて、サービスやマーケティングの方向性を適宜調整することを指します。グロースハックでもお馴染みのプロダクト・マーケット・フィット*に欠かせないステップです。

ピヴォット前の仮説検証には見込み客の生の声が不可欠であり、その最たる手段がMVPを実際に体験してもらうことなのです。

*プロダクトマーケットフィットとは、最適な市場に位置し、その市場を満足させられる最適な商品を持っている状態を指します。

③余計なコストを割かなくて済む

何と言ってもMVP最大の魅力は、開発に無駄な時間やコストを割く必要がなくなることです。

以下で詳しく説明いたしますが、MVPを作るのに大きなコストはかかりません。本格的なサービスを仕上げてから「こんなに開発に費用かけたのに、売上はこれっぽっち」と後悔する可能性が格段に低くなるのです。

MVPの魅力がわかったところで、具体的なMVPの種類と実例を5つご紹介したいと思います。あの有名サービスも、全てはMVPから始まったのです!

①プロトタイプ

恐らく「必要最低限の能力を兼ね備えたプロダクト」と聞いてまず皆様が思い浮かべるのがプロトタイプでしょう。

プロトタイプとは、試験やデモ用に作られた実験機を指し、特に有形製品を指す場合が多く、MVPの中でも比較的かかるコストが大きい部類です。

protptype

上記の画像はiPhoneの開発段階初期に制作されたプロトタイプと伝えられており、タブレット開発から派生したと言われる通り、実際に発売されたiPhoneとはサイズが大きく異なることがお分かり頂けるでしょう。

②オズの魔法使い

かなり変わった名称ではありますが、「オズの魔法使い(Wizard of Oz)」も立派なMVPの種類の1つ。

映画「オズの魔法使い」で魔法使いとされた人物が実際は中年のおじさんだったことから名付けられたこのMVPは、本来であればシステム化されているはずの(そして顧客にはそう見えている)フロントプロダクト(例えばウェブサイト)を、実際は生身の人間が手動で操ることで、開発初期に大掛かりなシステム化を行うリスクを避けるMVP手法です。

zappos

アメリカで大人気の靴・アパレル通販サイト「Zappos(英語)」も、現在でこそ大規模なシステム化や従業員の増加が進んでいますが、需要を検証する前はウェブサイトに注文が来る度に創業者が靴を買いに行っては梱包し、配送するというプロセスをマニュアルで行なっていたそうです。

③スモークテスト

スモークテストは、「カスタマーがサービスのアイディアに興味があるか」だけを調べるためのMVP手法です。

代表的なスモークテストはサービス紹介ビデオとプレオーダーの2種類。スモークテストをサポートしてくれるサービスが多数存在するため、アイディアを思い浮かんだ段階ですぐに実行に移せることが最大の利点です。

①サービス紹介ビデオ

グロースハック事例で最も有名とも言えるドロップボックスがローンチ前に実践したのがサービス紹介ビデオの製作です。

このビデオの公開と共に事前登録ユーザー数が5,000人から75,000人へと大幅に増加したことが知られています。

 ②プレオーダー

ローンチ前に事前に登録や購入を募るのがプレオーダー。ドロップボックスのように、サービス紹介ビデオと平行して実践することでその効果が向上します。

日本でも近年増えてきたクラウドファンディングサービスでは、プレオーダーと紹介ビデオを掛け合わせた スモークテストが頻繁に行われています。

こちらのページ(外部)でクラウドファンディングサービスが数多く紹介しておりますので、アイディアが固まったら今すぐトライしてみましょう!

④コンシェルジュ

顧客の目に触れるフロントプロダクトを制作するのが「オズの魔法使い」なら、全てをマニュアルで行なってしまうのがコンシェルジュと呼ばれるMVP手法。コンシェルジュ最大の利点は、カスタマーの意見を直接吸い上げられることです。

foodon

近所のセール情報と食の好みに基いて毎日の献立を考えてくれるWEBサービス「Foodonthetable.com(英語)」の創業者は、当初からウェブサービスの立ち上げを構想していましたが、実際にウェブサイトを立ち上げる前にコンシェルジュを行い、顧客の真のニーズを探った結果成功したことで知られています。

彼は実際に以下のステップで検証を行い、サービスをローンチする前に1回あたり約1,000円の報酬を得ていたそうです。もちろん当時のままではスケールも不可能ですが、「最低でも1,000円取れるサービス」と実証できたことの価値は大きいといえるでしょう。

  • 1. スーパーマーケットに行って、見込み客となる主婦を探す
  • 2. サービスに興味を見せた主婦に対して、将来的にウェブ上で実現するサービスを毎週実際に訪問して提供
  • 3. 直接フィードバックをもらい、その場で改善

⑤顧客調査

まだまだアイディアの骨格が固まっていないサービスでも実践できるMVP手法が顧客調査です。

AppSociallyのCEO高橋氏もサンフランシスコに出向いて実践した顧客調査は、コンシェルジュ同様に実際に制作物を準備することなく、紙一枚で実践できるのが最大の魅力。

顧客調査の詳細に関しては、以前にご紹介した「新規事業に失敗したくないなら絶対見て欲しい、誰でも3分で分かるLean UXと4つの基本ステップ」で詳しく説明しておりますので、参考にして頂ければ幸いです。

最後に

いくらAARRRでサービスの成長を考えられても、需要が無いプロダクトの開発に時間やコストをかけてはグロースハックに関する知識もなんの意味も成しません。

アイディアに具体性を持たせるために、顧客のニーズを探るために、MVP(必要最低限の能力を兼ね備えたプロダクト)の製作はリソースの限られた全てのスタートアップに必要不可欠なのです。