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New どこから改善すれば良いのか困ったときのPIESフレームワーク

「友達5人紹介で2,500円キャッシュバック」

以前、中国系インスタントメッセージアプリのWeChatが、北米進出の足がかりとして仕掛けたリファラルキャンペーンです。

UberやAirbnbも同額もしくはそれ以上のインセンティブを出していますが、基本的には無料で使えるIMアプリとしては大きな金額で、注目を集めました。

しかし、WeChatは実際にユーザーを惹き付け、IMアプリ市場に変革をもたらしたのでしょうか。

具体的なデータはありませんが、相変わらず北米市場はWhatsApp、Facebook Messenger、Snapchatなどが強く、一時の話題で終わってしまったように思えます。

こうした「一発屋」的なキャンペーンは常に話題に上がる一方で、失敗に終わるケースが多いのはなぜなのか。本日はそんなお悩みを、心理学の観点から解明したいと思います。

「カネ」の限界

問1 「金銭的インセンティブは最大のモチベーション要素である」( Yes or No )

実はこれ、「or」に丸をつけるのが正しい問題です。

インセンティブに関する心理学的研究は多数存在し、その多くが金銭的インセンティブの効果を認めています。実際、友人を紹介するだけで2,500円も貰えたら、そんな嬉しいことはありませんからね。

しかし、ダニエル・ピンク氏によるベストセラー「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」を含む著名な研究の多くは、金銭的インセンティブの効果は限定的であり、「短期的でシンプルなタスク」にのみ効果があると主張しています。

インセンティブが無くなったときに生まれる失望や継続する理由の欠落はもちろん、禁煙やダイエットにインセンティブを与えても長続きしないように、インセンティブは私たちの行動を形成する根本の考え方を変えるに至っていないからです。

真のモチベーション

では、本当のモチベーションとは一体なんなのでしょうか。

ヒントとなるのは、教育や行動心理を専門に活躍するAlfie Kohn氏による発言です。Kohn氏は、職場におけるモチベーションを語る中で、真のモチベーションは金銭的インセンティブ(給料)ではなく、職場が提供する「バリューやアクションに対する永続的なコミットメント」と主張しています。

この発言におけるバリューやアクションとは、自己成長、評価の向上、責任、チーム意識、プロダクトが提供するソリューションへの共感などを指しており、これは以下のようにネットサービスのユーザー体験にも当てはめることが可能です。

①ネットサービスの利用を通じて得られる自己成長

例: Quora、Codeacademyなど

②ネットサービスの利用を通じて満たされる承認欲求

例:Instagram、Facebook、TwitterなどのSNS

③サービス内に生まれるコミュニティ意識

例:mixi、geeklist、Quoraなど

④ネットサービスが掲げる理念への共感

例:Google、OKCupidなど

⑤生活が改善したと心から実感出来る満足感

例:Uber、Airbnbなど

つまり、派手ではなくとも、上記のようにユーザーの欲求を内面から刺激するバリューを提供出来るかどうかに、サービスの成長(AARRRの改善)はかかっているというわけです。

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モチベーションに影響を与える4つの要素

ネットサービスやUXとは直接関係ありませんが、職場のモチベーションに関する興味深い研究がなされていたため、その中で紹介されていた「モチベーションに影響を与える4つの要素」を本記事でもご紹介致します。

もともとは職場におけるモチベーション管理の為に提唱された考えですが、サービスが与えるモチベーションを考え直す上でも、フレームワークとして役に立つのではと考えたので掲載しておきます。

カタリスト(Catalyst)

カタリストは、タスクを進行する上でのモチベーションに、直接、ポジティブな影響を与える要素です。カタリストの代表的な例に、以下が挙げられます。

  • ・明確なゴール設定
  • ・自律の許容
  • ・タスク完了に必要なツールや情報の供給
  • ・時間的制限の緩和

ネットサービスに例えるとすれば、UIやウォークスルーなどの部分が一番近いのかなという印象です。

インヒビター(Inhibitor)

簡単に言えばカタリストの逆、つまり、タスクを進行する上でのモチベーションに、直接、ネガティブな影響を与える要素をインヒビターと呼びます。

不必要なステップ、使い勝手の悪いUI、などが、ネットサービスに当てはめた際の例と言えるでしょう。

ナリッシャー(Nourisher)

カタリストとは異なり、直接的ではなく、職場に存在する人間との人間関係によって非直接的にモチベーションに良い影響を与える要素です。

簡単に言えば、コミュニティにおけるメンバー間の尊敬、信頼、共通認識などがネットサービスにおけるナリッシャーにあたり、ソーシャル系やQ&Aサイトなど、自己完結しないサービスには不可欠なモチベーション要素です。

トキシン(Toxin)

ナリッシャーとは対照的に、直接的ではなく、職場に存在する人間との人間関係によって非直接的にモチベーションに悪い影響を与える要素です。

コミュニティ内での罵詈雑言、無視、不平等な扱い等がネットサービスにおけるトキシンにあたります。

匿名であれ実名であれ、ネットを介して人と人とをつなぐサービスであれば、上記の4つの要素は覚えておいて損はないでしょう。カタリストとナリッシャーを増やし、インヒビターとトキシンを減らしていく努力が重要です。

最後に

やや長くなりましたが、要するに、サービスを広げる為に近道はないということです。

サービスが明確なバリューを提供出来ていない間にいくらインセンティブをはたいても、その効果は一時的なものに終わることが目に見えています。

UberやAirbnbの金銭的インセンティブは長きにわたるプロダクトの改善の基にあるキャンペーンであり、どんなサービスも暗に真似をして成功出来るほど甘くはないのです。

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