計9回の連載もいよいよ最終章です。
前章までに、グロースハックの定義、グロースハッカーに必要な素養、トラフィックを獲得するためのテクニック、及びユーザーを獲得していく術を述べてきました。
ユーザーを獲得できたらグロースハックを達成したと言ってしまいたくなる気持ちはよくわかりますが、まだ最後の仕上げが残されています。
本章では、グロースハックにおける最後の、それでいて最重要のステップである、獲得したユーザーを保持(リテンション)していくためのテクニックをご紹介していきます。
ユーザーを保持するとは、一度プロダクトを使用してくれた人に、その後も普段からそのプロダクトを常習的に利用させることを言います。
定期的にプロダクトを使ってもらって初めてユーザーと呼べるのです。
もしあなたの会社がeコマースのサイトを運営しているならば、ユーザーの保持は定期的にそのサイトから商品を購入してもらうことを意味します。
コンテンツを配信している企業ならば、ユーザーにコンテンツを定期的に購入してもらうことを意味します。
海外の著名なグロースハッカーの多くは、コンバージョンファネルの中でもユーザーの保持が最重要であると考えます。
その理由は、以下の通りです。:
・ ユーザーのリテンション(保持率)が低かった場合、それまでグロースハックのために実行してきたあなたの独創的な施策は全て無駄となってしまいます。せっかく獲得したユーザーはコンバージョンファネルの最終段階でプロダクトから去ってしまうのです。穴の開いたバケツにはいくら水を汲んでも意味がありません。先にバケツの穴を閉じる必要があるのです。
・ サイトに訪問してくれた人があなたのプロダクトを使用してくれた(アクティベートした)ということは、その人はあなたのプロダクトにとても大きな興味を抱いていることを意味します。これは、プロダクトを成長させてくれるのにもってこいの人達であり、この手のユーザーの保持に力を入れなかった場合、最も価値あるグロースへの糸口をみすみす逃していることになるのです。
・ コンバージョンファネルの各段階は連動しているため、グロースハックの実現に新規ユーザーの獲得よりも既存ユーザーの保持の方が大きく寄与する場合があります。ユーザーの保持率を20%向上できたことは、トラフィックを20%多く獲得することと同等なのです。トラフィック獲得を20%増やすことは、ユーザーの保持率を20%向上させることよりも時間やマンパワーの資源を必要とすることもあるのです。
・ ユーザーの保持率の向上は、ユーザー一人一人のライフタイム・バリュー(LTV)が向上することを意味します。LTVの向上により実質的な歳入が増えるため、Chapter 6でもご紹介したプッシュ型グロースハック手法をより多く試すことが可能となるのです。つまり、ユーザーの保持はコンバージョンファネル全体の改良を可能とするわけです
・ あなたのプロダクトを長い間使ってくれたユーザーは、プロダクトに関して福音を流布してくれることがあります。彼らの生活にプロダクトの利用が溶け込んでいるならば、プロダクトに関して友人に話したり、仕事場に持っていったりと、何かとあなたのプロダクトの成長に寄与してくれるのです。
リテンションを高く保つことは、これまでに本連載の中でご紹介してきたグロースハック・テクニックと同様、学ぶことができるスキルなのです。
本連載の目次:
Chapter 6:海外の著名グロースハッカーが最重要視する9つのユーザー保持テクニック
目次
・ テク1:段階的にトラフィックを増やすこと
・ テク2:アハ体験まではスピーディーに
・ テク3:メールの配信に億劫にならないこと
・ テク4:アプリの通知機能の活用
・ テク5:エグジット・インタビューの実行
・ テク6:レッドカーペットを敷くこと
・ テク7:プロダクトの価値を高めること
・ テク8:プロダクト周りのコミュニティ形成
・ テク9:ユーザーを幸せにすること
・ まとめ
・ 本連載の総括
テク1:段階的にトラフィックを増やすこと
Chapter 4でも紹介したグロースハッカーが活用するコンバージョンファネルを見ると、まず始めにトラフィックを獲得して、それが完了したらユーザーをアクティベートし、最後にそれらユーザーを保持していく、といった具合で各ステップをそれぞれ完了させてから次のステップに進んだ方が良いように映るかもしれません。
しかし、このようなファネルの見方では、コンバージョン率の最適化を最も効率的に行っているとは言えません。
各ステップをそれぞれ完了させてから次のステップに進むのではなく、まずはトラフィック獲得にある程度のリソースを割き、獲得したビジターに対してアクティベーションやリテンション施策を試し、その結果に応じて残りのリソースをトラフィック獲得に割くべきかを決定すべきなのです。
たとえば、グロースチームに割り当てられた予算が40万円で、このチームは割り当てられた予算を数週間の内に使い切る予定だとしましょう。
使用用途の内訳はインバウンドでトラフィックを獲得するためのホワイトペーパー作成に10万円、Googleの広告に20万円、そしてハッカソン等のコンテストの開催に10万円とします。
これら全ての施策を行ったことによりあなたは達成感を感じるかもしれませんが、その後一ヶ月経ってからトラフィックは順調に獲得できている一方で、ユーザーをアクティベートし、更には保持することが全く上手くいっていないことに気付いたとしたらどうでしょう。
予算を使い切ってしまったにもかかわらず、成果として披露できることは微々たるものとなってしまいます。
上記の思考実験のような事態を避けるためにも、ファネルでの各工程が上手く行っているかを確認するために、まずはトラフィック獲得のための施策を1つだけ試してみることをお勧めします。
こうすることによって、ファネル内で改良の必要がある箇所を明確にすることができるのです。
その後に再度トラフィック獲得のための施策を講じれば、より効率的に資源を使えることになります。
ユーザーの保持も含め、まだ実験によるロスが小さいうちにファネルに試行錯誤を加えてみることによって、いざプロダクトの成長を加速させる段階になったとき、必要な下積み作業を全て終わらせておくことが出来るのです。
開発の速い段階では、ユーザーの保持まで結びつけられるよう、トラフィック獲得の施策は段階的に行うようにしましょう。
テク2:アハ体験を届けるまではスピーディーに
人々は、プロダクトの運営側であるあなたが提供すると約束したものを信じてあなたのプロダクトにやってきます。
自社のプロダクトはXの消費を抑え、さらにYという価値を提供し、Zをより簡単に行えるようにします、等といったように。
あなたの約束に嘘はないと訪問者や初回ユーザーが感じ、プロダクトを使用することによる便益を理解することを「アハ体験」と呼びます。
ユーザーを保持したいならば、人々になるべく早めにアハ体験をさせてあげることが必要なのです。
プロダクトを初めて見た人は、あなたの約束を素直に受け入れています。プロダクトが提供してくれる新たな価値にわくわくしながら心躍らせているのです。
しかし、アハ体験まで到達するのにもたついてしまっては訪問者は興味を失ってしまうでしょう。
そこで、プロダクト開発者が自分に問うべきこととして以下を十分に意識しましょう:
・ 自分自身がプロダクトのアハ体験を100%理解しているのか。ユーザーの保持率を最も端的に示す指標として、ユーザーが自社のプロダクト内でとる行動はなんなのでしょうか?
・ 仮にアハ体験を人々に実感してもらえるまで丸2日かかるとしたら、それを2時間に短縮することは可能でしょうか?
・ 現状ではプロダクトの価値を体験するためにユーザー登録を必要としているならば、アカウント作成前にアハ体験を可能とするようなサービスを提供できるでしょうか?
・ プロダクトの特徴として押し出しているものの中で、アハ体験に結びつかないものはあるでしょうか? それが原因で訪問者にとって雑音が増えてしまい、彼らがアハ体験まで辿り着けていない可能性はあるでしょうか?
・ プロダクトのアハ体験が何であるかを新規ユーザーにメールで説明することはできるでしょうか? アハ体験に直結するような行動を呼びかけることは可能でしょうか?
Twitterはある程度他のアカウントをフォローしているユーザーの方が、その後の使用率も高いことをつきとめていました。
そのため現在は、新規ユーザーにアカウントの作成過程で他のユーザーをフォローすることを手助けしています。
彼らはアハ体験までの到達スピードが重要であることをわかっているため、ユーザー保持のための施策はサインアップの段階から組み込まれているのです。
テク4:メールの配信に億劫にならないこと
エンジニアやプロダクト至高主義者はメルマガを毛嫌いする傾向があります。
彼らはメルマガは世界共通で嫌がられ、大概スパムとして扱われると考えているのです。
しかし、この認識は明らかに間違っています。
人々は自分の意思で企業から配信されるメールを受け取り、必要がなくなったら自ら配信停止の設定を行います。
勝手にメールの配信が嫌がられるだろうという判断をし、始めからプロダクトの成長に寄与する方法を自ら一つ消してしまうのではなく、人々にメールを受け取るか否かの判断をさせましょう。
メールの配信は、ユーザーを保持する上で非常に大きな効果を発揮します。このことを無視しては、自らプロダクトに足かせを課してしまうことになるのです。
プロダクトに関して配信できるメールにも何種類かあり、用途に応じて使い分けることが大切です。
・ドリップ・キャンペーン
ドリップ・キャンペーンとは、既に作成されているメールを決まった間隔を空けて複数回にわたり配信することを指します。
たとえば、新規ユーザーはプロダクト使用開始日初日、7日目、14日目そして21日目にメールを受け取るようなメルマガの仕組みがこの手のメールキャンペーンにあたります。
ドリップ・キャンペーンでは、あなたのプロダクトの紹介、プロダクト使用による実績や実例、あるいはプロダクトを使用することのメリット等、様々なことを伝えることができます。
新規にアカウントを作成した直後、ユーザーのプロダクトに対する期待値が最も大きいときに、彼らにプロダクトの素晴らしさを印象づけることをドリップ・キャンペーンは可能としてくれるのです。
また、複数配信することで、メールを配信する度にユーザーをプロダクトに呼び戻し、リテンションを高める機会もこの施策を通じて得ることが可能です。
・イベントのお知らせ
イベントやキャンペーンを告知するためにメールを配信することもできます。
この種類のメールでもっとも馴染みがあるものとしては、Facebookから送られてくるメールが挙げられるでしょう。
友人の誕生日のお知らせ、自分に関して誰かがコメントしたこと関するお知らせ等々、友人がFacebook上で私たちに関連がある行動を実行した際、私たちにはそれに関する通知のメールが送られてきます。
Facebookはこのイベントをお知らせするメールを巧妙に使っていることは皆さんもご存知だと思いますが、ユーザーに配信されるメールのほとんどはメールにあるリンクをクリックさせる目的で作成されており、これは再びFacebookの世界に人々を引きずり込める点で、非常に優れた施策です。
皆さんのプロダクトにも、ユーザーがとる行動の内、それをメールでお知らせできるようなものはあるでしょうか?
・アップデートに関するお知らせ
3つ目の種類には、プロダクトに関するアップデートをお知らせするメールが挙げられます。
この種類のメールは、新たにプロダクトに加えられた機能、新規スタッフの紹介等、ドリップ・キャンペーンには内容的にそぐわず、特定のイベントとも関連づけられない情報をユーザーに提供するために活用されます。
人々は他人が働いている様子や他の企業の職場環境に関して興味を抱くため、企業ロゴを背景に撮った開発チームの集合写真を配信するなど、この種のメールを使ってプロダクトの開発・運営現場の様子を写真と共に配信することも考えられます。
プロダクト提供側に親近感を覚えているユーザーの方が保持しやすいからです。
この種の施策を有効的に行っているサービスはおそらくEvernoteでしょう。以下にEvernoteから配信されてきたメールのスクリーンショットを掲載します。
テク4:アプリの通知機能
モバイル端末向けのアプリを開発している企業の場合、メールの配信以外にもう一つユーザーをプロダクトに引き戻せる方法を持っていることになります。
それはアプリの通知機能です。
あなたのモバイルアプリではプッシュ通知を使っているでしょうか? それとも新たな機能の追加、アップデート、及びその他の通知を行うためにバッジを使っているのでしょうか?
メールは大概ユーザーに毛嫌いされるのだという先入観と同様の先入観を、アプリの通知機能に関しても抱いている人がいます。
しかし、通知機能に関してもユーザー自身がオン/オフの設定を行えるため、彼らにその部分はゆだねてお知らせする必要があるアップデート等は必ず通知しましょう。
テク5:エグジット・インタビューの実行
ユーザーの声を直接聞くことは困難を伴います。
人々はプロダクトに関する率直な感想を述べることに対して全く引け目を感じていないため、時としてそれがあなたの自尊心を傷つけることもあるかもしれません。
しかし、そこは乗り越える他ありません。なぜなら、自分のプロダクトに関して最も学べるのはユーザーとの対話を通してであるからです。
近年、スタートアップ界隈ではカスタマー・ディベロップメント(顧客の声にプロダクト使用の早い段階で耳を傾けること)をしばしば聞くようになりましたが、これとは別に顧客との有益な対話方法があります。
ここではそれを「エグジット・インタビュー(出口調査)」と呼ぶことにします。
ユーザーがあなたのサービスの利用をキャンセルしたり、長い間プロダクトを放置して、保持されていない素振りを見せたときこそ、あなたは彼らからプロダクトに関して何かを学べる絶好の機会なのです。
彼らに直接メールを送って、自分のプロダクトで最も嫌いだった点を聞くことは非常に有効でしょう。
単純に言ってしまえば、何が最もイラついたのかを聞いてしまいましょう。
図太くいくことが大切です。このエグジット・インタビューを通して得られた意見を今後のプロダクトのロードマップ作成、及び将来的なユーザー保持率向上に活かそうと思えばすこし図太くなることも容易いはずです。
また、この段階でアンケートに応えてくれるようお願いすることを試してみてもいいかもしれませんが、その際は状況を冷静に把握してみることが大切です。
彼らは既にあなたに背を向けているような状態なのです。自分の時間の内、おそらく10分すらも割いてくれないでしょう。
ユーザーに送ったメールが短い1文のメールだったら、まだ手短な返答が返ってくる可能性があります。この段階では、ユーザーにお願いする分量を慎重に考えましょう。
このようなエグジット・インタビューは、ユーザーを引き戻すために使うこともできます。
去り行くユーザーには破格の割引券を提示したり、通常サイト上では告知されていない安価なパッケージを提供してみるのも有効かもしれません。
ここまで来てしまったら、既にユーザーを失ってしまったも同然なので、呼び戻すために大胆な施策に出てみるのもありでしょう。
テク6:レッドカーペットを敷いてあげる
ユーザーがプロダクトから去ることを防ぐ方法として、最もコアなユーザーにはレッドカーペットを敷いてあげることが考えられます。
エグジット・インタビューは最悪の状況の中から何かを得るために行うものでしたが、レッドカーペットは最悪のシナリオを回避するために行います。
あなたのプロダクトを最も使ってくれるユーザーにレッドカーペットを敷いてあげる方法をここでは5つご紹介します。
・ ユーザーとなってくれた最初の100人にTシャツを贈呈する
・ 配信するメルマガで、最も使用率が高いユーザーに意見を発信させてあげる
・ 普段からプロダクトを多用してくれているユーザーのTwitterアカウントのリストを作成して、彼らのツイートを頻繁にリツイートしてあげる
・ VIPユーザーには特典を付けてあげる
・ プロダクトの成長に寄与してくれているユーザー限定で、ユーザーにとって関連のある会合等に無料で参加できる抽選券を配布する
全てのプロダクトはそれぞれ異なりますが、ここで言いたいことは要するに最も重要なユーザーには感謝の意を表することが大切だ、ということです。
これは彼らをユーザーとして保持することにもつながりますが、それ以外にも、人は自分が注目されていると感じたり、特別・重要な存在だと感じたとき、ソーシャルメディア上でそれを拡散したがります。
プロダクトのコアユーザーには御礼をすると共に、彼らがさらにあなたのプロダクトを宣伝してくれるような動機付けをしちゃいましょう。
テク7:プロダクトの価値を高める
プロダクトの根底にあるのは、そのプロダクトユーザーに提供する価値。
つまり、プロダクトの価値を常に意識しておくことが、ユーザー保持率向上には欠かせないのです。
利用開始日にプロダクトに価値を感じていたユーザーが、プロダクトの使用を開始してから100日目にも価値を見出してくれている保障はどこにもありません。
ユーザーを保持するためには、常に需要曲線を先読みする必要があるのです。
価値を提供するための方法として:
・機能を増やす
もしあなたのプロダクトが特徴的な機能を備えていないならば、新たな機能を付け加えることはユーザーの保持に有効かもしれません。
もしエグジット・インタビューを行った人の内、3人に2人が同じようなこと言い、それがプロダクトが提供できていない価値に起因していた場合、単純に彼らが欲しているものを提供することは合理的な判断かもしれないのです。
これはフィーチャー・クリープ(ソフトウェアの機能の追加が何度も行われた結果、複雑で使いづらいものになってしまうこと)に陥るということではなく、ユーザーを保持するために人々が実際に欲している価値を提供する、ということなのです。
・機能を減らす
この連載記事の中で機能の削減に言及するのは少し奇妙なことかもしれません。
しかし、時と場合によっては機能を減らすことも価値の向上につながります。
ユーザーにとって使い勝手の良くない、あるいは使われない機能は、プロダクトにとって負の影響しかもたらしません。
それら機能は人々がプロダクトの素晴らしい点を発見することを妨げてしまうのです。
人々はプロダクトのコンテンツの多さに惹かれてユーザーになるわけではありません。
プロダクトが提供する価値に魅力を感じてユーザーになるのです。
テク8:コミュニティの形成
何かに帰属意識を感じている人の方が、ただ形式上会員登録している人よりも長くコミュニティにいる傾向があります。
ここでは、プロダクト周りでコミュニティを形成する方法をご紹介いたします。
・カスタマーサポートを充実させること
プロダクトを長期的に使ってくれる人とプロダクトに関する悪い評判を流布する人とを分けるのは、カスタマーサポートの充実度であることがしばしばです。
アメリカのアパレル関連通販サイトZapposほど良心的なことはできないかもしれませんが、それでもカスタマーサポートをよりユーザーに親身なものとすることによって、彼らが何らかのコミュニティに属しているように感じさせることができるのです。
下の図はZapposのカスタマーサポートの様子を示しています。リアルタイムのチャットでカスタマーサポートをするあたりが斬新ですよね。
・説明書の提供
もしあなたのプロダクトが説明書を必要とするならば、それを可能な限りわかりやすい形で提供するのはあなたがコミュニティに対して行うべき奉仕です。
ソフトウェアのインストールや使用に必要な説明書きがなかったら、ユーザーを保持することは不可能に近いでしょう。
・SNS的側面を持たせる
プロダクト内でユーザー同士が交流を持てる機能は付いているでしょうか?
ユーザーを保持するのに非常に効果的な方法は、ユーザー同士がつながることを可能にすることです。
プロダクトが提供する価値のみでは去ってしまうようなユーザーも、プロダクト上での関係性を維持するためにプロダクトを使い続けるといったこともあるのです。
テク9:ユーザーを幸せにすること
ユーザー保持の核を成すのは、つまるところ喜びなのです。
プロダクトを使っていてハッピーになれるならば、人々は常習的にあなたのプロダクトを使ってくれます。
逆に、プロダクトを使っていて不快な思いをさせてしまったら、人々はユーザーにはなってくれません。
あまり固く考えすぎずに、プロダクトを通して人々を喜ばせることを考えてみては如何でしょうか?
まとめ
・ ユーザーの保持はもしかしたらコンバージョンファネルの中でも最も重要なステップかもしれません
・ ユーザーを保持する8つのテクニックとは:
> 段階的にトラフィックを増やす
> アハ体験まではスピーディーに
> メールの配信を恐れない
> アプリの通知機能の活用
> エグジット・インタビューの実行
> レッドカーペットを敷く
> プロダクトの価値を高める
> プロダクト周りのコミュニティ形成
> ユーザーを幸せにする
連載記事の総括
4週間をかけて計9回の連載記事を掲載してきました。
記事を執筆する側の私も大変でしたが、それぞれ分量的に多めの記事に目を通していただいた読者の皆様も大変だったことと思います。
ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。わずかながらでもグロースハックに関して皆様に有益な情報をご提供できたならば、仕事冥利に尽きます。
Chapter 1 ~ 8にまだ目を通されていない方は、今からでも結構ですので、是非ご一読いただければ幸いです。
さて、第9章までご覧になっていただいた方は、おそらくグロースハックに非常に興味を持たれていることと思いますので、私自身もグロースハック業界においてはまだまだ新参者ではありますが、最後に数点アドバイスをさせていただきたいと思います。
グロースハックは学ぶことのできるスキルセットであり、本連載が読者にとってグロースハックを学ぶための手助けとなることを心より望んでいますが、他のスキルと同様、グロースハックも修得するためには実際に手を動かして色々と練習してみる他ありません。
本を読んで理解することと、グロースハックを自分の肌で感じ、体得することはやはり違うのです。
グロースハッカーとしての能力を磨きたいと思うならば、なんでもいいので一つプロジェクトを見つけ、グロースハック手法を実践してみることが大切なのです。
他人の成功・失敗体験からよりも、自身の成功・失敗体験からの方がより多くのことを学べることは間違いありません。
自身の成功体験は甘い体験として忘れることがない一方、自分で犯した失敗はいつまでもチクチクと痛むため、二度と同じ失敗は繰り返さないことでしょう。
本連載記事でご紹介したスキルの数々を身につけたならば、あなたは将来をも見据えた能力を修得したことになるのです。
グロースハックを一時的な流行りに過ぎないと言う人もいますが、廃れてしまうにはあまりに強力なツール及びマインドセットです。
もちろん、グロースハックという呼び名自体が変わることはあるかもしれませんが、中身が変わることはないでしょう。
グロースハックとは新しいプロダクトの見方であり、この存在を無視してしまうことは自ら成長の障害を課してしまっているも同然とも言えます。
最後に一つ小話をご紹介して締めくくりたいと思います。
Atlassianは今日、世界で最も急成長を遂げているソフトウェア企業の内の一つで、私が知る限りにおいて、最も洗練されたグロースハックチームを抱えています。
彼らはコンバージョンファネルの向上のための試行錯誤を科学的見地に基づいて行い、機械学習によってその都度ファネルの制度を向上させているのです。
新規のユーザー獲得に専念したグロースチームと、一度プロダクト内に入ってきた人をコンバージョンすることに焦点を絞っているグロースチームの両方を抱えており、非常に整った企業であると言えるでしょう。
しかしAltassianにとって難しいのは、彼らのプロダクトがBtoB向けのソフトウェア会社であり、一般大衆が耳にしたことすらないようなプロダクトを売っているという事実なのです。
彼らが提供しているプロダクトはコミュニケーションとソフトウェア環境の連携を可能とするだけであって、何ら面白みはありません。
しかし、それでいてAtlassianが今日のような急成長を遂げられているのも、全てはグロースハックによってと言って過言ではないでしょう。
グロースハックのマインドセットを持っている企業とそうでない企業とでは、10年後、20年後に差が歴然とついているはずです。