edited by Takaya Uchida
【本記事の続編が公開されました!】
第3章では、いよいよグロースハックを達成していく過程を述べます。
優秀なグロースハッカーは頭の中には、意識的にか無意識的にかは知りませんが、自社プロダクトを成長させようとするときに必ず通る6つのステップが用意されています。
この章は実際にハックに取りかかる前に、グロースハッカーが確認すべきチェックリストとしてご活用いただければ幸いです。
本連載の目次:
Chapter 3:海外の著名グロースハッカーが必ず押さえる6つのステップ
目次
・ステップ1:実現可能な目標設定をする
・ステップ2:目標達成度合いを確認するためにデータ分析を用いる
・ステップ3:自社の強みを活かす
・ステップ4:実験を行う
・ステップ5:実験を最適化する
・ステップ6:ステップ4、5をひたすら繰り返す
・まとめ
ステップ1:実現可能な目標設定をする
全ては的を絞った、実現可能な目標設定から始まるべきです。
そんなこと当たり前じゃないか、と言われるかもしれませんが、概してグロースハッカーは漠然としすぎていて意味をなさない目標を掲げてしまう傾向があります。
確かにグロースが至上目標ではありますが、グロースハックと聞いて連想するようなグロースのイメージは、より細分化された作業を全てこなした上での話なのです。
例えば、あなたはプロダクトを持っていて、1日あたりのアクティブユーザー(DAU)を増やしたいとします。
しかし、この目標はまだ曖昧すぎます。
その後、あなたはDAUの向上のため、既存ユーザーのリテンション(retention)を向上させることに注目することにします。
しかし、リテンションの向上に目標を絞ったとしてもまだ幅がありすぎます。
そこで、あなたはさらにウェブプロダクト上におけるユーザーのコンテンツ作成を補佐をする機能をサイトに付加することにします。
なぜなら、あなたはコンテンツを自身で作成するユーザーの方が、閲覧のみに従事するユーザーよりもサイトの利用率が高いことを知っていたからです。
ユーザーのコンテンツ作成はリテンションにつながり、結果的にDAUを伸ばすことに成功することになります。
そのため、このグロースハッカーは、ユーザー作成のコンテンツ量を2倍にすることを目標に掲げました。
曖昧な目標設定:DAUの数を向上する
適切な目標設定:ユーザー作成のコンテンツ量を2倍にする
多くの人は、自分が十分に目標を明確化できたかどうかを判断できずにいます。
この場合、次のように考えてみましょう。
あなたが達成すべきゴールは階層化されており、階層の一番下に存在しているタスクをそれぞれ個別に完全に処理することが可能なとき、目標を十分細分化できたと言えるでしょう。
グラフ化すると以下のような感じです。
To-doリストから「スタートアップを成長させる」という項目を完了済みとして消せる日は来るでしょうか。
そんな日がやってくることは一生ありません。目標設定が曖昧すぎるのです。
「DAUを増加させる」ことを実現したといずれ言えるようになるでしょうか 。これも、解釈の幅が広すぎて、実現性が極めて低いですね。
一方、「ダイレクトメールを介してユーザーにコンテンツ作成方法を教育する」ことは比較的たやすく実現できそうです。
繰り返しのようですが、自分が作成した階層の最下層のタスクと一対一に対応策が容易に見つかるとき、初めて目標を十分に細分化できたと言えるのです。
ステップ2:目標達成度合いを確認するためにデータ分析を用いる
さて、あなたはユーザーが作成したコンテンツ量を2倍にする、と決めました。
次に確認すべき点は、果たして自社にそれを実現できるだけの資源があるのか、ということです。適切な分析は行われているでしょうか?
自社に投げかける質問例としては:
・ コンテンツ作成量に関する追跡調査を行っているのか?
・ 作成されたコンテンツを全て一まとまりとして追跡しているのか、それとも項目毎に分けているのか?
・ 作成されたコンテンツ自体の分析を行っているのか?(大きさ、リーチ数、シェア数 etc.)
・ コンテンツを使用・消費するのに用いられているデバイスに関する分析を行っているのか?
・ コンテンツを使用・作成しているユーザーの多くが参照しているリンクを追跡しているのか?
等が挙げられます。
本連載記事では度々データ分析の重要性を強調していますが、分析なしではどんなに立派な目標も砂上の楼閣なのです。
各段階での目標が達成されたか否かを定量的に判断しないまま、次の段階に進むようなことをしてはいけません。
さらに、Chapter 2でも述べましたように、分析結果によっては目標自体が変わることもありえます。
データ分析と目標設定は互いに持ちつ持たれつの相乗関係にあるのです。
相乗効果の例として、先ほどリテンションを向上させる施策としてユーザーが作成のコンテンツ量を倍増することに決めました。
しかし、データ分析の結果が、長さが3分以上のコンテンツしかリテンション向上に寄与していないことを示唆していたならば、単純にコンテンツ量を増やそうとするのではなく、コンテンツの性質に関しても何らかの制約を加える必要性が出てくるかもしれないのです。
また、進捗状況を知るためにデータ分析を行う利点は、データの蓄積に伴い、分析の威力が増していくことにもあります。
起業してからの数年間、一つ一つ着実に目標を達成していく中で、それまでに蓄積されたデータが強力は武器になっていることに気付くことでしょう。
新たなゴールを設定したとき、既に必要なデータを追跡してあることもあるでしょう。その場合、起業時から蓄積されたデータの中から未来への道しるべを発見できる可能性があるのです。
全てのグロースハッカーは、始めは切れ味の悪い斧しか持っていませんが、データの蓄積と共に鋭さが増していくのです。
ステップ3:自社の強みを活かす
古代ギリシャの数学者、アルキメデスはかつて
十分な長さのてこ棒と適切な位置に置かれた支点があれば、世界を動かすことだってたやすい。
と言ったとされています。
これは単純に詩的なだけではなく、実際に、十分に長いてこ棒を用いれば、巨大な物体も軽い力で動かすことができるのです。
どのスタートアップも潜在的にてこ棒として活用できる強み、ツールを持ち合わせているものです。
少しの努力で大きな効果が得られそうな領域を発見したとき、そこが自社特有の「てこ」になるのです。
ステップ1、2で行った思考実験を引き継ぐならば、あなたはユーザーを教育するためのダイレクトメールを送ることと、「新着情報」のカテゴリーをウェブサイトに加えることのどちらを先に行うべきかを悩むかもしれません。
既に連絡先情報を20万件取得しており、確固たるメール配信システムを持っている場合、おそらくメールの文面は1日もあれば作成できることを鑑みると、こちらの選択があなたの企業の「てこ」になりそうだと考えられます。
一方、「新着情報」のカテゴリーをサイトに加えるために、プランニングの段階からデザインの作成、そしてサイトにそれを実装するために数日間を必要とし、既に自社のエンジニアが他のタスクに追われている状況だったら、他の選択肢がある中で、こちらを選択することはあまり賢そうではありませんね。
てこの原理が、言ってしまえばこの場合、選択を決定してくれるのです。
あなたのスタートアップ特有の「てこ」はエンジニアチームの馬力ではなく、連絡先情報の多さとメール配信システムになるのです。
もちろん他のスタートアップには別の選択が最適解であることもありますが、それはあくまで「てこ」の形態に依存します。
計画、目標、及び実務の優先順位は、往々にして「てこの原理」を忘れてしまうがために、非合理的になりがちです。
自社の強みに応じてグロースプランを柔軟に変更していきましょう。
参考記事:
継続ユーザーを増やしたいのなら、まずは「ユーザー」を調教しよう
ステップ4:実験を行う
あなたは既にユーザー作成のコンテンツ量を倍増させる目標を設定することによってステップ1は完了しています。
ステップ2もクリアして、設定した目標の達成度合いを知るために必要なデータを取得しています。
さらに、自社の「てこ」に気付き、メルマガを配信することことによってユーザーを教育することにし、ステップ3も完了しました。
そこで、いよいよ実験を行う、つまり実際にメールを配信する段階に来ました。
ただ、実験(メールを配信した結果、まだ何が起こるかわからないので実験と呼んでいます)を行う上で、留意すべき点が複数あります。
・実験を行う前に必ず仮説を立てること
理系出身の方であれば、大学1、2年時に必修として実験の授業があったことを思い出すかもしれません。
多くの場合、実際に実験を行う前に、仮説をたてることが要求されたと思いますが、グロースハックでも同じです。
実験を行った結果、どのような影響がありそうか、ということを事前に書きとめておきましょう。
これから送るメールは既にこれまで配信してきたメルマガよりもクリック率が上がるだろうか? 上がると考えるならばそれはなぜか? メルマガ配信により、次の1ヶ月間でユーザー作成のコンテンツはどの程度増えるだろうか?
目標として掲げているユーザー作成のコンテンツ量倍増を完全に達成できるだろうか、それとも1.5倍に留まるだろうか?
すぐにメールを配信し、実際にその効果を測定できる状況下でこのような疑問を立てることは滑稽に思えるかもしれません。
しかし、この考え方は重要な点を見落としています。
実験後では後日談としていくらでも言い訳をできますが、実験前に仮説を立てることは自身の期待値を表明した証拠になるのです。
例えば、既に毎週ユーザーに1通メルマガを配信しているとします。そのため、2通目のメールはユーザーに疎んじられ、クリック率がそれまで配信していたメルマガよりも下がると仮説を立てたとします。
しかし、実際に2通目のメールを送ってみたところ、従来のメルマガよりもクリック率が高いことに気付きました。
この場合、事前に仮説を立てたという事実がなければ、おそらくあなたは元からクリック率の高さを予想しており、自身の能力の高さを周囲に自慢したい衝動に駆られることでしょう。
仮説を事前立てることは人を正直にするのです。
この場合議論は、あなたがどれだけ優れているのかという空虚なものではなく、なぜ仮説が外れたのかという実り多きものになるのです。
実験の結果、自分が思っていたよりも多くのユーザーがプロダクトの運営側とコンタクトを取りたがっていることに気付いたとしたら、今後のプロダクトの成長にとってこれほど有益なことはありません。
・実験のために必要な資源を出し惜しみしないこと
実験を行うことは、通常の業務に何かしらの影響を与えます。
一点目として、不測の事態に対応できるよう、グロースハックチーム全員に実験の内容を周知させておく必要があります。
二点目として、資源が限られている日時を把握した上で、実験を計画する必要があるということです。
例えば、火曜日は毎週アクセス数が集中してサーバーへの負荷が大きいことがわかっていたならば、火曜日にトラフィックを30%も増やすような施策は行うべきではないでしょう。
三点目として、実験の準備に数日を要する場合、きちんと時間的資源を確保しましょう。
手の込んだ実験を行う場合、実験のために必要な各構成要素を作成するのには予想以上の時間を要するものです。
・最初に入ってきたデータを見て気を落とさないこと
多くの場合、グロースハッカーは自分が行う実験は必ず良い方向に物事を運んでくれるに違いないという過信を持っています。
自分が行おうとしている実験こそが企業が抱えている問題の最適解だ、と。
もはやアントレプレナー病とでも命名したくなる現象です。
しかし、Chapter 2でも述べたように、ほとんどの施策は失敗に終わります。
次こそは上手くいくさ、という楽観さを持ち合わせていることは重要ですが、実験の結果が不作に終わる度に気を落としていたのではきりがありません。
・成功体験、失敗体験両方から学ぶこと
データは知名度に似ています。
知名度に善し悪しがないのと同様、データ自体にも善し悪しはありません。
実験が失敗に終わったとしても、プロダクトはユーザーに関する膨大なデータを新たに得られたことには間違いなく、それを次の実験に活用できるのです。
トーマス・エジソンは電球を作る過程で、1000回以上失敗したと言われています。
このことを指摘されたエジソンは
私は1000回失敗したのではない。私は1000通りもの電球を作れない方法を発見したのだ。
と豪語したそうです。なんだか屁理屈のようにも聞こえてきますが、言っていることは正しく、成功体験から学べるとの同じように、失敗体験からも学べることは多いのです。
ステップ5:実験を最適化する
実験は一度実行したらそれっきり、というものではなく、必ず改善した上で繰り返し行うべきものなのです。
これ以上詰められる要素がないという段階に至るまでは、諦めずに何度も挑戦しましょう。
・対照群を持っておく
対照群とは統計学の用語で、要は恣意的に加える条件を一定に保っておくことによって指標となるサンプル母体のことを指します。
実世界では自分ではどうにも制御できない環境要因が無数にあります。
もし、ユーザーの内80%の人のみにコンテンツ作成方法に関するメールを配信した場合、残りの20%のユーザー(対照群)とコンテンツ作成量がどのように変化するかを比較できることになります。
例えば、自分が認知していない外的要因によって、自社サイトでのコンテンツ作成量が減ったとします。
この場合、対照群の存在なしでは、新たにメールを配信したことがコンテンツ作成量の現象につながったのだと誤った判断をしてしまうことでしょう。
下の表をご覧ください。対照群がなければ、本来メールの配信によってコンテンツ作成量は5%上昇にもかかわらず、10%減少したと判断してしまう可能性があるのです。
・A/Bテストを活用する
A/Bテストがグロースハッカーによって重宝されるのには訳があります。効果が絶大なのです。
たとえあなたが配信するメールのクリック率が上がるタイトルの付け方をわかっているつもりでも、A/Bテストが真実を伝えてくれます。
メールを開いたユーザーが実際にコンテンツ作成を開始してくれるようなランディングページのデザインをわかっているつもりでも、A/Bテストが真実を伝えてくれます。
ここで大切なことは、A/Bテストを行うかどうかは実験を行う前に決めなければいけないということです。
上の例でも、A/Bテストの概要を決めずに、ユーザー全員にメールを配信してしまっては、データから学べたはずであろう情報も失いかねないのです。
・実験の諦め時
通常、実験は諦めるべきものではないですが、想定していたより「てこ」が弱かったり、期待していた効果を得るためには膨大な資源を投資しなければならないとわかったときは引き際だと言えるでしょう。
ステップ6:ステップ4、5をひたすら繰り返す
新しい実験、または以前行った実験を改善したものを選択し、ステップ4、5で述べた内容を繰り返す段階に来ました。
これまで強調してきたチェックポイントを全てこなしていったならば、グロースハックを成し遂げることは偶然ではなく、必然と言えるでしょう。
本連載の目次:
まとめ
・ 実現可能な目標設定をする
・ 目標の達成度合いを測定するためにデータ分析を行う
・ 自社の強みを把握する
・ 実験を行う
・ 実験を最適化する
・ 成功するまで実験をひたすら繰り返す